【三菱総合研究所】人口減を越えて：ついのすみかどこへ　高齢者の地方移住

高齢者の地方移住を、どう考えたら良いのか。松田智生三菱総合研究所主席研究員と舛添要一東京都知事の２人に聞いた。

　◇雇用生み、若者流出防ぐ　松田智生・三菱総研主席研究員

　日本版ＣＣＲＣ構想は、既存の医療・介護施設とは異なり、高齢者が退職直後など元気なうちから移り住むのがポイントだ。住民は適切なサポートを受けながら、能力を生かした仕事を持つこともできる。集まって住むことで食料や資材の調達コストが抑えられる利点もある。

　米国のＣＣＲＣでは、予防医療や施設運営のノウハウ、健康維持に関する膨大な情報「ビッグデータ」を活用することで、多様な仕事が生まれている。日本の自治体にとっても新たな雇用が生み出され、都市への若者の流出を防ぐ打開策となる可能性がある。

　企業の新たなビジネスの機会が増える可能性もある。大学との連携により、生涯学習のような生きがいや健康維持につながる活動が期待できる。大学が難しければ高校と協力し、都市から出身者を呼び戻すといった柔軟さがあってもいい。

　ＣＣＲＣの理想的な人数は２００?４００人程度だが、離島や中山間地域向けの２０?３０人規模のモデルも考えられる。空き家や廃校、撤退後の商業施設は再利用できる。

　地域に開かれた拠点にしていくことが大切だ。移住者との交流を通じ、地元住民が生きがいを見つけるケースもある。施設を地元にも開放し、利用料を割り引くなど工夫する必要がある。

　◇施設確保へ都用地活用　舛添要一・東京都知事

　東京都では今後、６５歳以上の高齢者の急増が予想されている。都は２０２５年度末までに老人ホームなどを増やし、少なくとも１５万人分の高齢者施設を確保する計画だ。地価が高く施設整備が進んでいなかったが、都有地を社会福祉法人に安く貸し出すなど多様な支援策を展開し始めた。「治療より予防」で健康寿命を伸ばす取り組みも同時に進める。

　東京の病院のベッドが不足するから、高齢者を地方に移住させるという発想はおかしい。人間は医療や介護だけで生きているわけではなく、家族や仕事、マイホームなどを含め全体を考えた政策を進める必要がある。

　移住を進める場合に一番のブレーキになるのはマイホームだ。中古市場が十分整備されていない現状では、持ち家を高く売るのは難しく、住宅ローンが残る人は身動きが取れない。故郷に帰りたくても配偶者に反対されれば東京を離れるのは厳しい。受験を控えた子どもがいるなど、移住の条件の合う人はどれだけいるのか。

　ただ施設への入所を待つ高齢者が数万人単位いるのも事実で、特別養護老人ホームは特に不足している。地方は地価が安く施設整備の条件が良いが、どんなメリットを移住希望者に提供できるのかを考え、国や東京と総合的に協力し合うことも必要ではないか。

2015年 9月30日
毎日新聞

三菱総合研究所（MRI）
三菱創業100周年の記念事業として設立。政策、科学技術、経済・金融など、幅広い研究分野をカバーしている。ITソリューション事業部門の拡大を目指し、システム開発会社である三菱総研DCSの連結子会社化し、三菱UFJフィナンシャル・グループとの業務提携などの施策をとっている。事業分野は、シンクタンク事業、コンサルティング事業、ITソリューション事業の3事業だが、他社シンクタンクに比べ研究色が強い。

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