【タワーズワトソン】米利上げ、年金基金の運用支援にも

企業が現在および将来の年金退職者に支払わなければならない給付金は7年前の約1.5倍の規模に膨らんでいる。ムーディーズ・インベスターズ・サービスが14日公表したリポートで明らかになった。

　ムーディーズから社債の格付けを付与されている企業の年金債務は年末時点で合計2兆1000億ドル（約254兆円）に達し、2008年に比べ7030億ドル増える見通しだ。このうち増加額の約半分に相当する3420億ドルは、受給者への将来の支払額を計算するのに使う「割引率」に関連するものだ。

　だが、米連邦準備制度理事会（FRB）が今週の連邦公開市場委員会（FOMC）で利上げを開始すれば、割引率は変わり始め、企業に若干の余裕が生まれる可能性がある。将来必要な給付金額を計算する場合、年金資産が高格付け長期債の実勢利回りで運用されることが仮定条件の一つとなる。

　ムーディーズによれば、年金基金は08年以降年間10％前後という高い運用利回りを実現しているにもかかわらず、「（運用収益を含む）積立金は（必要給付金の）80％未満にとどまっている」。数理計算上、年末時点で4500億ドルの不足金が発生する可能性が高い。

　米化学大手ダウ・ケミカルのハワード・ウンガーライダー最高財務責任者（CFO）は11日、米同業デュポンとの合併交渉に関する電話会議で、金利がわずか1％も上がれば年金基金の積み立て不足はゼロになる可能性があると述べた。デュポンのニック・ファナンダキスCFOも同様の見方を示した。

　しかし、FRBの利上げ後すぐに企業が有利な割引率を使えるようになるわけではない。FRBが管理しているのは短期金利だが、社債の年限はそれよりも長いからだ。それでも、人事・組織コンサルティング大手マーサーのリスク部門責任者、マット・マクダニエル氏は11日、ウォール・ストリート・ジャーナル（WSJ）のCFOジャーナルに対し、割引率がわずか1％上昇しただけで、年金の積立金が十分な企業の割合が現在の10％から25％に増えるかもしれないと話した。

　これとは別に米コンサルティング会社タワーズ・ワトソンは、年金基金が私募債など流動性の低い資産に投資し始めていると指摘した。規制当局が銀行の資本増強を目的に実施するストレステスト（健全性審査）は年金基金に適用されない上、私募債などはより高い利回りを得られることが多いからだ。

　タワーズ・ワトソンによると、同社が顧客とする世界の機関投資家が保有する非流動性資産は過去5年間で70億ドル余り増加した。

　だが、こうした代替投資商品の中には満期前の売却が難しいものもあり、高リスクのディストレス債も含まれる。ディストレス債は財務危機に陥っている企業が発行した債券のことで、企業にとって最後の頼みの綱とも言える。

2015年 12月15日
THE WALL STREET JOURNAL

タワーズワトソン
2010年1月タワーズペリンとワトソンワイアットが合併しタワーズワトソンに社名変更した。全世界に14000人の社員を擁し、組織・人事コンサルティング、退職金・年金コンサルティング、年金資産運用コンサルティング、報酬データサービス、保険コンサルティングを提供している。

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