リスク回避続ける富裕層マネー、インカムゲイン型投資が主流に

富裕層マネーのリスク回避が続いている。昨年の株安や円高で大きな含み損を抱えた金融資産は塩漬けの状態で、新規の投資先は社債などシンプルでインカムゲイン型の商品が中心となっている。
 足元の株価回復で投資マインドはやや好転し「一部で損切りの動きが出てきた」(三井住友銀行)が、景気不透明感が払しょくされていないため「富裕層が本格的に市場に戻ってくるにはまだ数カ月かかる」(SG信託銀行)との見方が優勢だ。一方で、富裕層向け金融サービスを提供する内外の金融機関の勢力地図に変化の兆しも出てきたようだ。
 <塩漬けの富裕層マネー> 
 メリルリンチとキャップジェミニが昨年まとめた「アジア太平洋地域ウェルス・リポート」によると、100万ドル以上の純資産を保有する日本の富裕層は約151万人で、アジアの富裕層の半分強を占める。野村総合研究所(NRI)・上席コンサルタントの宮本弘之氏は、富裕層には自社株などリスク性資産の保有率が高い企業オーナーが多く、海外資産に分散投資していても、米リーマンショック後の株安と円高で「金融資産が3─5割減ったケースは珍しくない」と指摘する。富裕層が金融機関を通じて積極的に購入していた株式や為替にリンクした仕組み債、仕組預金でも痛手を被ったという。
 日本でPB事業を展開する内外の金融機関によれば、富裕層が昨秋以降に取った行動は、株式などリスク性商品の現金化と外貨建て資産の円預金へのシフト。8カ月たった今でも「富裕層は資産を増やすことよりも、資産を守ることを重要視している」(SG信託銀行のアラン・シモン社長)状況で、新規投資の動きは鈍い。
 安全志向を強めた富裕層が求めている運用商品は「シンプルでインカムゲイン型商品」(三菱UFJメリルリンチPB証券・執行役員の坂東謙一氏)。大手銀が発行した優先出資証券や劣後債、海外の高格付け社債などが具体例で、含み損を取り戻すためにキャピタルゲインを狙うのではなく、インカムゲインを得ながら相場回復局面で資産の回復を目指す動きが主流という。今後も「社債や高配当株投信などを取り込んだポートフォリオの再構築が進む」と坂東氏は予想する。
 <都心の現物不動産に食指>
 安定的な利回り確保を狙う投資先として、現物不動産への関心も高い。みずほ銀行・総合コンサルティング部PB室の上野高弘室長によれば、不動産価格の下落と安定した家賃収入に着目し、金融資産を都心の商業ビルなど現物不動産にシフトする動きが広がりつつある。NRIの宮本氏も「昨年末頃から立地の良い超優良物件を指名して底値で買う動きが出ている」と指摘する。
 半面、昨秋以前は富裕層に人気だったヘッジファンドなどオルタナティブ商品への投資は見送られている。運用成績の悪化や流動性の問題に加え、米マドフ巨額詐欺事件の影響もあり「投資家は金融商品の透明性をこれまで以上に求めている」(UBS銀行東京支店のウエルス・マネジメント部マネージングディレクターのジャン─クロード・ヒュメール氏)。NRIの宮本氏によると「わかりやすい投資への回帰」で、国内上場の海外指数連動型ETFへのニーズは高まっている。
 <若手富裕層は積極的な投資を継続>
 全般的に慎重姿勢が広がっているものの、若手富裕層の投資意欲は衰えていないようだ。富裕層限定の交流サイトなどを運営するアブラハム・グループ・ホールディングスの高岡壮一郎社長は「30─40代の富裕層は、金融危機下でもリスク性商品に対し積極的な投資を続けている」と話す。国内富裕層の9割は60代以上だが、同社会員の7割を占める30─40代の富裕層は「投資のチャンス」と捉えており、昨年の運用が好調だったCTA(商品投資顧問)などのヘッジファンド投資を年明けから増やし、米国株や新興国株にもここ2カ月程で資金を戻してきたという。
 大手金融機関の顧客でも「40─50代の創業者で今が投資の好機とみて動いている人が、ごくわずかだがいる」(三井住友銀行プライベート・アドバイザリー部の太田康広部長)とされ、年代により投資マインドに差が出ている。 
 <競争環境の変化>
 富裕層マネー争奪戦にも微妙な変化がみえる。富裕層向け金融サービスを提供するプライベート・バンキング(PB)で強みを持つUBS<UBSN.VX><UBS.N>やソシエテ・ジェネラル<SOGN.PA>など欧州勢は、ここ数年で日本の事業を拡大。ブランド力や海外投資商品などを武器に存在感を高めつつあった。だが、欧米金融大手の破たんや相次ぐ再編で外資系PBへの信用が揺らいでいるとの声も、富裕層ビジネスの周辺でささやかれている。
 こうした状況の中で、今月14日にはスイス金融大手クレディ・スイス<CSGN.VX>が日本のPB市場に参入した。「日本では後発だが、世界では長い間PB事業を提供しノウハウを蓄積している。日本でも長い伝統に裏付けられたブランドを訴えていけば必ずマーケットシェアを取れる」(クレディ・スイス銀行東京支店プライベート・バンキング本部長の谷淳也氏)と強気な構えをみせる。
 ただ、リテール網を持たない外資系銀行にとって顧客の開拓は容易ではない。さらに欧米金融機関の相次ぐ再編や大幅赤字の計上などで「欧米金融機関に対する信頼度やイメージが低下し、外資系PBとの関係を見直そうと考える人もいる」(60代の企業オーナー)との声も出ている。
 外資系各社は日本のPB事業に関して「長期的コミットメントは変わらない」と強調するが、UBSが02年に日本のPB事業からいったん撤退し、米シティバンクも04年に撤退したことが、富裕層の「頭をよぎる」(同企業オーナー)という。
 対する国内勢は攻めの姿勢が鮮明。富裕層個人の資産運用ニーズは低調でも、企業オーナーの事業承継ニーズはおう盛とみているためだ。株安で自社株の評価額が下がり、相続税の観点から自社株譲渡に好機が訪れているほか「4月に新たな事業承継税制が導入され、自社株譲渡ニーズが高まる見通し」(三井住友銀・太田氏)。
 また、景気悪化でオーナーが事業再編や売却を検討する動きもあり、自社株や事業の売却でオーナーの現金資産が増えれば運用面でもサービス提供の機会が増えることも想定している。
 「これまで『外資が攻め、国内が守り』だったが攻守が逆転してきた」(NRI・宮本氏)とみる向きもある。
 とは言え「最終的に富裕層が選ぶのは金融機関の看板でなく、営業担当者の情報やアドバイスの内容次第」(NRI・宮本氏)という富裕層ビジネスの現実がある。金融危機下での営業担当者の対応に満足していないケースも多く、厳しい投資環境下だからこそ、情報の差別化などで富裕層の信頼を勝ち得るチャンスがあるとも言えそうだ。
(ロイター日本語ニュース 大林優香記者;編集 田巻 一彦)

2009年 5月23日
ロイター

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