マーケティングリサーチ 業界研究

マーケティングリサーチ業界は、企業が市場や消費者の動向を理解し、戦略的な意思決定を行うために欠かせない情報を提供する重要な役割を担っています。マーケティングリサーチャーは、その専門知識とスキルを活かし、企業の成長と成功を支える重要な存在であり、今後も市場規模は拡大し続けています。

※以下、市場規模に関する数値についてはトレンドを示すための参考情報です。出典により統計情報が大幅に異なりますので、本稿では特定の出典をベースに算出しています。

世界全体のマーケティングリサーチ業界の市場規模は、近年のデジタルトランスフォーメーション（DX）の進展に伴い、過去10年で2倍以上の市場に拡大しています。そのうち、アメリカが約6.5兆円を占めており、世界市場の過半を占めています。アメリカに続いて、イギリスやその他の欧州諸国も大きな市場を形成しています。

国内市場は安定して成長を続けており、最新の推定では日本のマーケティングリサーチ市場は約900億円に達しています。これは、アジア全体の約40%を占める規模です。ただし、全世界でみると僅か1％未満と成長の余地があります。

マーケティングリサーチャーの需要は今後も増加することが予想されます。特に、DXの進展やビッグデータの活用が進む中で、マーケティングリサーチャーの役割は重要性を増しています。また、日本のリサーチ企業は国内市場だけでなく、海外市場への進出も積極的に行っており、グローバルな競争力を高めています。

マーケティングリサーチャーが活用する調査手法には、主に定量調査と定性調査の二種類があります。

選択肢回答形式のアンケート調査などを通じて取得したデータを数値化して分析する手法です。マーケティングリサーチャーは、この数値化された情報を用いて全体の構造や傾向を把握します。以下が定量調査の特徴です。

・数値化されたデータ: 回答を数値として集計し、統計的に分析するため、全体のトレンドやパターンを明確に把握できます。
・大規模なサンプル: 多くの回答者からデータを収集することで、結果の信頼性と一般性が高まります。
・比較容易: 異なるグループ間での比較や時間の経過による変化を簡単に分析できます。

グループインタビューや個別インタビューを通じて言語情報を中心に収集し分析する調査手法です。マーケティングリサーチャーは、この手法を用いて個人の意見の細かいニュアンスや深層心理の情報を把握します。以下が定性調査の特徴です。

・言語情報の収集: 質問に対する自由回答やディスカッションを通じて、詳細な意見や感情を引き出します。
・深層心理の理解: 消費者の行動や選好の背後にある動機や感情を深く理解することができます。
・柔軟なアプローチ: 調査中に新たな質問を追加するなど、状況に応じた柔軟な対応が可能です。

マーケティングリサーチャーが活用する調査方法には、パネル調査やアドホック調査があります。それぞれの手法は、異なる目的や状況に応じて適用され、企業の戦略的意思決定に貢献します。

パネル調査とは、特定の調査対象者を長期間固定して継続的に調査を行う方法です。マーケティングリサーチャーは、この手法を用いて、同じ内容の調査回答が時間の経過とともにどのように変化するかを分析します。以下がパネル調査の特徴です。

・長期的なデータ収集: マーケティングリサーチャーは、時系列データを収集し、トレンドや変化のパターンを分析します。
・継続的なインサイトの創出: 調査対象者の行動や意識の変化を継続的に追跡することで、マーケティング戦略の精度を高めます。

データの一貫性の担保: 同一のパネルを使用するため、データの一貫性が保たれ、比較分析が容易となります。

アドホック調査は、必要に応じて単発で行われる調査です。マーケティングリサーチャーは、調査設計から実査、集計、分析までを一貫して担います。以下がアドホック調査の特徴です。

・オンライン調査: オンラインアンケートを通じて短期間で大量のデータを収集し、迅速なフィードバックを提供します。
・インタビュー調査: 個別またはグループでのインタビューにより、詳細な意見や感情を収集し、質的データを深掘りします。
・街頭調査: 特定の場所で対象者に直接インタビューを行い、リアルタイムなデータを収集します。

マーケティングリサーチャーは、パネル調査やアドホック調査以外にも、様々なデータ集計・分析手法を駆使して、企業のニーズに合わせたリサーチを提供します。これには、ビッグデータ解析、ソーシャルメディア分析、顧客データのマイニングなどが含まれます。
マーケティングリサーチャーの専門知識とスキルを活かしたこれらの調査方法により、企業は市場や消費者の動向を的確に把握し、効果的な戦略を立案することが可能となります。マーケティングリサーチャーは、企業の成長と成功を支える重要な存在です。

もっともリサーチを使う業界はグローバルでメディア、広告、エンタメ業界、次いで医療、製薬でこの二つで約半分以上を占めています。また政府・公共系、消費財、コンサルティング業界が続いていますが、
リサーチの実例をご紹介しながら、どんな場面でリサーチャーが活躍しているのか見ていきましょう。よりリサーチ業界が理解できると思います。

この事例については有名な話で、色々なサイトで紹介されておりますが、ドライゼロの開発においてリサーチが大きな役割を果たしました。
アサヒではすでにノンアルコールビールのブランドとして「ダブルゼロ」という商品を発売していましたが、競合であるキリンビールの「キリンフリー」、サントリーの「オールフリー」などに勝てず、シェアはたった2％と大きく差が開いていました。
そこでアサヒでは、まずノンアルコールビールを飲む頻度や量、状況、ブランドイメージなどの市場調査、マーケティングリサーチから行うことで新商品開発を始めます。
（ノンアルコールビールやビールを飲む頻度や量についての「予備調査」を実施し、その後本調査を2回実施。延べ対象者数は1000人という規模）

リサーチを行うことで、
・ビールをいつも飲んでいるが、翌日仕事が忙しいときは控えたい
・休肝日を作りたい
といった理由でノンアルコールビールで飲む人がいることがわかり、それまでは妊婦や運転手、アルコールが飲めない人が消費者として想定していましたが、ビールを飲む人もアルコールを飲まないという選択肢でノンアルコールビールを飲んでいることがわかりました。
一方ブランドイメージとしては、競合製品は、
・健康的
・女性
といったイメージが強く、味もフルーティという評価が多く、ビールそのものとは違ったイメージを持っていることがわかりました。
アサヒとしては、こういったポジショニングイメージから空白だった
・男性的
・ビールに近い味
というポジショニングで「ドライゼロ」を開発し、ノンアルコール市場2位のキリンフリーを抜き、シェア24％を上回り首位を取ったそうです。

オーソドックスなマーケティングリサーチではなく、MROC調査と呼ばれる方法で市場調査をしたのがスターバックスです。
スターバックスが運営するコミュニティである"MyStarbucksIdea"では、顧客が同社に対するアイデアを提案し、同社より投票やコメントを受ける場となっています。"MyStarbucksIdea"にアイデアやコメントを投稿するためにはコミュニティに参加する必要があり、コミュニティ内では活発なアイデア提供が行われています。同社は、コミュニティ開設後6ヶ月で75,000件のアイデアが寄せられたと発表しています。
こうした方法もマーケティングリサーチの1つの手法であり、近年注目を集めています。

近年異例の大ヒットといわれる商品の一つに、明治の「ザ・チョコレート」があります。おしゃれなパッケージと、従来のチョコレートの二倍する価格帯でありながらのヒット。既存のチョコレートでは空白地帯であった商品を開発できた裏側には、緻密なマーケティングリサーチがあります。だからこそ、開発途中での社内の反対の声にも毅然とした対応により開発を進めることができました。事前のマーケティングリサーチによって、消費者からの声を集めていたからできたのです。

明治では、その他の商品開発においても同様のアプローチがなされています。例えば、「生活者研究」と呼ばれる、幅広い年齢層の食生活・趣味・交友・ファッション・健康意識といった全般に関する数々のデータを集めています。これは定量調査と呼べるものではないでしょうか。また、重視している調査の一つに、「グループインタビュー」があります。ふだん買っているデザートの満足・不満足な点を聞くことでニーズを探っています。もちろん、新商品やリニューアル商品の試作品を試食してもらいながら、商品をブラッシュアップしていくそうです。こちらは、定性調査の典型的なやりかたですね。さらには、発売後の商品の味の満足度や購入回数などを調査し、リニューアル等にもつなげていっています。

マーケティングリサーチャーは、企業の戦略的な意思決定を支えるために、重要なデータとインサイトを提供するプロフェッショナルです。マーケティングリサーチャーとして成功するためには、特定の経験やスキルが求められます。以下に、マーケティングリサーチャーに必要とされる主要な経験とスキルを詳述します。また、転職市場を想定し、業界経験者と未経験者それぞれに対する具体的な情報を提供します。

市場調査の実務経験
マーケティングリサーチャーは、さまざまな市場調査手法を実践的に理解し、適用できる必要があります。これには、定量調査や定性調査などが含まれます。

業界知識
特定の業界における知識と経験は必須です。例えば、消費財、IT、医療、金融などの業界に特化したリサーチ経験があると、より深い洞察を提供できます。

データ分析の経験
大量デーデータを扱い、統計分析やデータマイニングの経験が求められます。これにより、データから有益なインサイトを引き出す能力が高まります。

データ分析能力
マーケティングリサーチャーは、収集したデータを的確に分析し、意味のある結論を導き出す能力が必要です。統計ソフトウェア（SPSS、SAS、Rなど）やデータ分析ツールの使用経験は重要です。

コミュニケーション能力
調査結果をクライアントに対して分かりやすく報告し、提案する能力が必要です。プレゼンテーションスキルやレポート作成能力が求められます。

クリティカルシンキング
問題を深く理解し、論理的かつ批判的に考える能力です。これにより、複雑な問題を解決し、効果的な戦略を提案できます。

プロジェクト管理スキル
マーケティングリサーチプロジェクトは多岐にわたるタスクを含むため、プロジェクトを効率的に管理し、期限内に成果を出す能力が必要です。

分析ツールの活用スキル
データベース管理、デジタルマーケティングツール、ビッグデータ分析ツールなど、最新の技術に精通していることが求められます。

マーケティングリサーチャーへの転職を考えている業界経験者は、特定の業界知識を活かすことができます。以下の業界出身者は特に有利です。

消費財業界
消費者の購買行動やトレンドに関する知識が豊富なため、マーケティングリサーチ業界でのさが高いでが高いです。

IT業界
デジタルデータの分析スキルや最新技術の理解が強みとなり、デジタルマーケティングリサーチに適しています。

医療業界
医薬品やヘルスケア市場に特化したリサーチの経験は、医療系企業にとって非常に価値があります。

金融業界
数字に強く、データ分析スキルが優れているため、金融市場の調査に役立ちます。

マーケティングリサーチャーは、その豊富な経験とスキルを活かして、さまざまな業界や業務に貢献することができます。以下に、マーケティングリサーチャーの経験が特に活かせる業界と業務について詳述します。

■マーケティングリサーチャーの経験が活かせる業界
消費財業界: 消費財業界では、マーケティングリサーチャーの消費者行動の洞察が新製品開発やブランド戦略に直結します。日用品や食品、飲料などの製品開発において、市場のニーズやトレンドを把握するために、リサーチのスキルが欠かせません。
IT・テクノロジー業界: IT業界では、デジタルマーケティングやユーザーエクスペリエンスの向上のために、マーケティングリサーチャーのデータ分析スキルが重要です。新技術やサービスの受容性を評価するためのリサーチが求められます。
医療・ヘルスケア業界: 医療業界では、薬品や医療機器の市場調査や患者のニーズを把握するために、マーケティングリサーチャーの専門知識が活かされます。エビデンスに基づくマーケティング戦略の策定が求められます。
金融業界: 金融業界では、顧客のニーズや市場動向を把握するために、マーケティングリサーチャーの定量分析能力が重要です。投資商品の開発やマーケティングキャンペーンの最適化に役立ちます。
小売業界: 小売業界では、消費者の購買行動や店舗のレイアウト、プロモーション効果の分析にマーケティングリサーチャーのスキルが必要です。データに基づいた戦略的な店舗運営が可能になります。

■マーケティングリサーチャーの経験が活かせる業務
新製品開発: 新製品のアイデア創出から市場投入までのプロセスにおいて、マーケティングリサーチャーの消費者インサイトが不可欠です。市場のギャップやニーズを発見し、製品コンセプトを検証する役割を担います。
ブランド戦略: ブランドイメージの構築やリブランディングにおいて、消費者の認識や競合分析を行うマーケティングリサーチャーの役割が重要です。ブランド価値を最大化するための戦略立案に貢献します。
広告効果測定: 広告キャンペーンの効果を測定し、ROIを最大化するために、マーケティングリサーチャーのデータ分析能力が活かされます。ターゲット市場へのリーチやメッセージの受容性を評価します。
顧客体験（CX）向上: 顧客の声を収集し、サービスや製品の改善点を特定するために、マーケティングリサーチャーの定性調査スキルが活用されます。顧客満足度を高めるための施策を提案します。
市場拡大戦略: 新市場への進出や既存市場でのシェア拡大を図るために、マーケティングリサーチャーの市場分析能力が重要です。地域特性や競合状況を分析し、戦略的なアプローチを策定します。

業績、規模が大きいマーケティングリサーチ企業を、グローバルと日本でご紹介いたします。

◆ニールセン
世界最大級のマーケティング調査・データ分析カンパニー。従来のマーケティングリサーチだけでなく、近年ではデジタルに力を入れており、デジタルコンテンツ・広告モニタリングツールや分析など様々なサービスを提供しています。
2017年業績：63億ドル

◆カンター
イギリスに本社を置くグローバル企業。日本においてはカンター・ジャパンとして活動しており、多岐にわたるマーケティングに関連するサービスを提供しています。
2017年業績：38億ドル

◆イプソス
パリに本社を置き、世界88カ国でリサーチ・サービスを提供している世界第３位のグローバル・マーケティング・リサーチ会社。
2017年業績：19億ドル

◆マクロミル
国内マーケティング・リサーチのリーディングカンパニー。現在は国内だけでなく、アジア・欧米を中心にグローバルに展開しています。特に創業時よりインターネットリサーチに強みがあり、ネット・ITの隆盛と共に急成長した日本を代表するリサーチ会社です。

◆ビデオリサーチ
テレビ視聴率調査などメディア・リサーチのリーディングカンパニー。多くの人に馴染のある視聴率サービスを手掛ける企業です。その他、マーケティングリサーチサービスを幅広く手掛け、複合的なソリューションを提供しています。

◆インテージ
世界でもTOP10に入るマーケティングリサーチ企業。市場調査分野では日本で唯一小売店パネル、消費パネルの両調査網を持つリーディングカンパニーです。

マーケティングリサーチャーとしてのキャリアは、企業の成長を後押しするために、消費者のニーズや市場のトレンドを見極める重要な役割を担います。データ分析やクリエイティブな問題解決を通じて、企業の戦略的な意思決定に大きな影響を与えることができる非常にやりがいのある仕事です。

今後もこの分野は成長が見込まれており、新しい技術やデジタルツールの活用が進む中で、マーケティングリサーチャーのスキルセットはさらに価値を増すはずです。日本市場のみならず、グローバルに活躍するチャンスが広がっています。

迷わずに一歩踏み出してみましょう。あなたの洞察力と情熱が、企業の未来を形作る重要なピースとなります。マーケティングリサーチの世界で、新たなキャリアの扉を開き、あなたの力を最大限に発揮してください。