塗り変わる金融地図 国際化への試練

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)と米金融大手モルガン・スタンレーが折半出資し、7月に設立した「モルガン・スタンレーMUFGローン・パートナーズ」。米国やカナダを舞台に、M&A(企業の合併・買収)に絡む協調融資や証券発行の引き受け業務をスタートさせた。

 「すでに4件の引き受けを決めた。交渉中も含めれば20件にのぼる。予想以上に好調な滑り出しだ」

 三菱UFJの幹部は合弁事業の成果に胸を張る。

 M&Aの大型案件では通常、十数社の金融機関が協調して証券発行などを引き受けるシンジケート団を構成するが、世界の金融機関が厳しい競争を繰り広げる北米市場では、三菱UFJは「シンジケート団の下位がせいぜい」だった。

 それが合弁の新会社が決めた4件は、いずれもシンジケート団の上位数行にしか認められない「トップ・ティア」(主力取引行)を獲得した。モルスタのM&Aアドバイス業務を豊富な資金量を持つ三菱UFJがバックアップし、企業への提案力を高めたことが好調の理由だ。

 「モルガンと手を組んだことで、『トップ・レフト』も夢ではなくなった。三菱UFJだけではとうてい望めなかった栄誉だ」

 「トップ・レフト」は大型案件の主導権を握るシンジケート団の主幹事のこと。北米市場での主幹事の獲得は、世界に通用する金融機関の地位を得たことを意味する。

 ■危機で得たチャンス

 1年前に起きた米証券大手リーマン・ブラザーズの破(は)綻(たん)に端を発した世界的な金融危機は、「国際化」を模索する日本の金融機関に大きなチャンスを与えた。

 野村ホールディングス(HD)はリーマンのアジア・太平洋部門、欧州・中東部門を買収した。

 「1年前とは違う会社になった」。野村HD執行役の仲田正史は、こんな自己評価をする。金融庁幹部からは「『NOMURABANK』はもはや国際語。リーマン買収以降、国際会議で必ず話題にのぼるほど知名度が格段に上がった」との声が聞こえてくる。

 リーマンから顧客とシステムを引き継いだ野村は7、8月にロンドン証券取引所で株取引シェアの首位を獲得。8月には、デリバティブ市場のユーレックス(独フランクフルト)の取引シェアでもトップになり、昨年1月の65位から一気に躍進した。

 ■産みの苦しみ

 複雑な金融工学を駆使し、収益を上げる投資銀行業務は、日本の金融機関の大きな課題だった。三菱UFJと野村HDは“敵失”をうまく利用し、その人材とインフラを獲得した。

 だが、伝統的に堅実経営を続けてきた日本の金融機関が、本当に欧米勢と肩を並べられるのか。不安材料のひとつは人材の流出だ。背景には、高額報酬が当たり前の欧米のビジネスモデルとの違いがある。

 野村HDの平成21年4〜6月期連結決算(米国会計基準)をみると、6四半期ぶりの黒字となったものの、全体の人件費は前年同期比で57%増の1381億円に膨らんだ。人材の流出を防ぐために、旧リーマン社員への高額の報酬の支払いが理由とみられる。

 「証券業務は人が柱。だが、日本人がしたたかな外国人を使うのは至難の業だ。人がいなくなれば提携や買収のプラス効果も発揮できず、気がついたら外箱だけで中身はもぬけの殻になりかねない」とあるエコノミストは指摘する。

 三菱UFJの場合、「人材交流」をモルガンとの提携強化の柱の1つに掲げ、三菱UFJの若手バンカーが最大20人規模でモルガンへ出向させるが、これは一方通行の交流にすぎない。

 第一生命経済研究所主席エコノミストの熊野英生は「日本と欧米ではビジネススタイルが違う。一連の提携は、周回遅れになった日本の金融機関がキャッチ・アップするためには避けて通れなかった。うまくいくところ、いかないところに分かれるだろうが、今は産みの苦しみの段階といえる」と指摘する。

 リーマン・ショックは、グローバル化を目指す日本の金融機関にチャンスとともに大きな試練を与えている。=敬称略

2009年 9月16日
産経新聞

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