企業のSEを戦略コンサルタントに変える方法

 情報システム部門員にコンサルタントのような役割を期待している情報システム部門は多い。また、ITベンダーにおいても「超上流」部門の強化を目指し、コンサルティング部門の設立やコンサルティング会社の取り込みなどの動きも珍しいものではなくなっている。

 今回、「SEを戦略コンサルタントに変える」というテーマでローランド・ベルガーの連載陣を招いて座談会を開催した。

●SEとITコンサルタントと戦略コンサルタントの違いは?

 鈴木信輝プリンシパルは「問題解決を企業活動の中や内だけで完結させるのがSEやITコンサルタント。一方で戦略コンサルタントでは企業をとりまくあらゆる要素を考慮してとりかからなければならない。これが一番の違いではないか」という。

 大野隆司パートナーは「このことは、前者が設定された「制約条件」の中で解を追求していくという仕事、後者は「制約条件」そのものを設定するところから始まる仕事、ということができますね」と続ける。

 大野氏も鈴木氏も、新卒で米国系の大手総合コンサルティングファームに入社し、プログラマーとしての経験を持つ。多くのシステム構築やITコンサルティングにも従事した経験があるため、2人の定義には説得力がある。

 それでは、SEとITコンサルタントの違いはどこにあるのだろうか。

 大石シニアコンサルタントは、新卒で大手ベンダーに入社し基盤系のSEを経験した後、米系のITコンサルティングファームを経て現職という経歴だが、自らの経験から「ITコンサルタントは、状況を顧客に正確に説明することがより求められる」と語る。

 システムを見せて動かして納得してもらうということが不可能であるがゆえ、抽象度の高い事象を紙や会話できちんと説明することが重要であり、困難でもあったという。

 一方で「ITコンサルタントとしての仕事の内容は、プロジェクト管理の支援や、業務設計からシステム要件策定の支援が多く、システムの実装に関与するか、しないかという点を除けば、両者に根本的な違いはありません」(大石氏)とも語る。

 現在多くのITコンサルティングファームは、実装についても自社で行っており、この点からも両者の差はあいまいになってきているようだ。

 「違いがあるとすれば情報システム構築によって会社に貢献するという意識が一般的なSEよりも強い」と大野氏と鈴木氏は指摘する。いわゆる「経営的な視点」の有無は、いま存在意義が問われ始めている情報システム部門が今後の在り方を議論する上でのポイントになりそうだ。

●どういう力が必要なのか?

 ここで、SEやITコンサルタントよりも、さらに経営的な視点で企業を支援する戦略コンサルタントについて、SEやITコンサルタントの仕事との違いの観点から語ってもらった。

 「前提条件や制約条件を外して考えるということが大事でしょう」と語るのは大久保プロジェクトマネジャー。大久保氏は新卒で大手メーカーに勤務し、システムのプロジェクトにもユーザー側としてかかわった経験を持つ。その後MBA取得を経て大手ネットワーク系ベンダーでのプリセールスなどを経て現職という経歴。システム監査人などの多くのIT関係の資格を有するという一面も持っている。

 「ユーザーとして社内のシステム構築プロジェクトにかかわった際、システム部門員や外部のベンダーのSEさんから“この業務はシステムで自動化されます ”といった発言は何度も聞きましたが、“この業務は本当に必要なのですか? ”といった発言は一度も聞いたことがありませんでした。やみくもに全否定することを勧めるわけではありませんが、既存の仕組みやルールなどの前提条件を建設的に疑ってみることは必要でしょう」(大久保氏)という。

 「シナリオを作る力が大切だ」というのは大野氏。「30枚の提案書であろうが、一枚のパワーポイントのチャートであろうが、その中にはきちんとしたストーリーが構築されていなければならない。クライアントのプロジェクトでベンダーさんやITコンサルタントの資料では、しばしばストーリーが破たんしている資料を拝見することもある」と鈴木氏が補足する。

 破たんしないきちんとしたストーリー作りのためには何が必要なのだろうか。SEは論理的な思考力に富んでいるがゆえに、コンサルタントに向いているといわれることも多いが、この点はどうなのだろう。

 「確かに論理的な思考力は必要です。ただ、それだけでは足りません。まず、相手が何を本当に求めているのかをよくよく考えてつかんだうえで、適切にハイライトしなければ相手に刺さるシナリオは作れないでしょう」(大野氏)

 大野氏も鈴木氏も社内でレビューをしていて「間違ってはいないけど、つまらないね」というコメントを出すことも多い。

 相手が何を本当に欲しているのかをつかむためには、冷静な情報分析と同時に、本音をつかみ出すコミュニケーション力が必要となってくる。

 「コミュニケーションと言っても、会話が途切れないようにするとか、うまく笑いをとるとか、そういうことではないんです。相手の発言を受け止めたうえで、相手の悩みや問題意識の原因や理由を考えていって、悩みや問題意識の根源にたどりつくまで考えていくということです」(鈴木氏)

●SEという仕事のアドバンテージと不利な癖

 鈴木氏は「ITコンサルタントを目指すならば、基本的にはSEの仕事の延長線上にあると考えられるので、システムの知識や経験がそのまま役に立つ部分が多いでしょう」と話す。また、例外条件を漏れなく洗い出すといったSEの仕事の緻密さは、戦略コンサルティングをするうえでも強みになることは間違いないという。大野氏もこれは同意見だ。

 しかし「この緻密さの追求が悪い面に出ることもある」という。「戦略コンサルティングでは、何を言いたいのかを明快なメッセージで打ち出すことが必要だが、例外条件にとらわれてメッセージの切れ味が失われてしまうという傾向はありますね」(鈴木氏)

 「制約条件がない環境下できちんと思考をしていけるかというと、なかなか難しい。身に付いた癖を直すのは結構大変です。わたしも戦略系コンサルティングファームに転職した際はそこに苦労しました」(大野氏)

 「癖ということで挙げますと、SEやITコンサルタントは、自社製品や知っているソフトウェアを当てはめる、という解決策を考えがちです。この癖もやっかいでしょね」と大久保氏。

 新システムを作る場合に、パッケージソフトを候補として選び、FIT&GAPといわれる業務への適合性の検証といった進め方が主流で、ゼロベースであるべきシステムを検討するといったアプローチは現実としては少ない。これは、先の制約条件を外すといったこととも深く関連していそうだ。

 メーカーからITベンダーを経て転職して戦略コンサルタントになった大久保氏はSEに向けて、経営戦略の視点から情報システムを考える戦略コンサルタントという職種にチャレンジしてもらいたいと話す。

 職業、職種でコンサルタントに向く向かないというのはそれほど無さそうだ。「自分の現在の仕事を通じてよく考えるという良質な経験を積んでおく」ことが大事だという。

●普段心掛けること

 最後に普段の心掛けについて、なるべくユニークなものという条件を付けて聞いてみた。意識さえすれば、すぐにでも始められるものがほとんどだ。

 「好奇心を持つこと。ただ、これも単なる物知りになれということではなくて、“なぜなんだろう? ”と一段二段深く考えていくことのきっかけにしていくことが大事」(大石氏)

 「言い切る癖をつけてみる。明確にシンプルに言い切ったうえで、後からその説明がきちんとつくように大急ぎで思考をするというスタイルをこころがけてみる」(大久保氏)

 「言い訳をしない。人間は弱いですから、ネガティブな面を指摘されると、自分以外の理由を探して安心したいものですが、あえてネガティブな意見を正面から受け入れたうえで、自分の問題点を冷静に考えてみる。格好良く自己を相対化してとらえる鍛錬ということでしょうか」(鈴木氏)

 「“いまの仕事は自分の将来のキャリアに役立たない”と微視的な視点で判断をしないことですね。自分の仕事、つまり経験を“思考すること”のきっかけにする。担当している仕事がなぜ企業の中で必要なのか、現在のアーキテクチャが採用された必然性、仕事の改革の余地の探査など、思考の鍛錬のきっかけはたくさんあるはずです」(鈴木氏)

 「無知の知ということを強く意識することですね。自信を持つことは大事ですが、一方で森羅万象に対する恐れも必要です。自分が何を知らないのかをよく知ったうえで、知識やスキルの探求に臨むことが大事ですね。本当にそう思います」(大野氏)

 座談後の雑談で、制約条件、本音をつかみ出す、ストーリーを作るといったこれらの要素は「恋愛と似ている」という話題が出た。確かに相手が何を考えているかを推察し、相手が喜ぶストーリーでデートを組み立てる一方で、予期せぬ出来事への対処が必要となる点など類似点は多い。【怒賀新也ITmedia エグゼクティブ】

2010年 4月27日
ITメディアエンタープライズ

ローランドベルガー
ヨーロッパで最大の経営戦略コンサルティング会社。現会長であるローランド・ベルガーが1967年に設立し、世界31カ国に43のオフィスを展開している。クライアントの業界として特に多いのは、消費財、自動車などの製造業、再生エネルギーなどのエコ事業。その他にも、IT、医薬、化学、金融、流通、運輸など幅広い業界で実績を保有。また、ヨーロッパを出自としている為、米国系コンサルティングファームとは異なるカルチャーを持つとも言われている。具体的には、短期的な企業価値向上・株主価値向上ではなく長期的な視点での成長を志向する事、経営学のセオリーに偏ったトップダウンアプローチを採るのではなく企業の文化・社員の意思を尊重する事、などが挙げられる。

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