
movin:
先ほど挙げていただいた3つの領域では、具体的にはどのような案件があるのでしょうか?
中道様:
「Investigations」については、比較的皆様もイメージがつきやすい分野だと思います。会社において、不正会計や、横領、循環取引などが発覚・発生した際に、誰がどのような手口で何を行ったのかを解明した上で、これらの再発防止のためのアドバイスをさせていただいています。同時に、上記不祥事の財務諸表への影響を把握し、過年度修正対応を含め、どのように開示・対応するべきかをクライアントと議論し、アドバイスしています。
次に「Digital Forensic」で扱っている典型的な案件はカルテル関係の調査です。日本では最近、自動車部品メーカーなどが米国司法省にカルテル摘発されるケースがよく見られますが、この場合、米国司法省に対してどういう形でカルテルが実施されていたのかという、証拠を網羅的に提供する必要があります。
そこで、カルテルに関係していた社員のメールをはじめとした各種データを収集し、その膨大なデータの中から、調査しようとしている事案、事項に関連している部分のみを抽出し、弁護士や当局に対して適切な形でお渡しするという一連の手続きをお手伝いさせていただいています。
movin:
大量のメールや文書、あるいは通話記録といったデータを収集し、解析されるわけですね。どのようにその膨大なデータの中から該当する部分を抽出されるのですか?
中道様
例えばカルテルの場合、使用されていた暗黙のキーワードをベースに検索を行っていくこともありますし、メール記録を見ながら、そもそもキーワードとして何が怪しいのかという目星をつけることもします。最近では人口知能を用いてこういった業務をより効率的に遂行できつつあり、技術面での進歩が目覚ましい領域ではありますね。
movin:
このチームでは会計士の方に限らず違ったバックグラウンドの人材も活躍されているのでしょうか?
中道様:
むしろ会計士はこの領域においては少数派で、ITバックグラウンドを有するメンバーがチームの中心となっています。膨大な量のデータを扱った経験がある方、システムに精通されている方が多いですね。
movin:
本当に様々な部門なるほど。3つめの「Innovation」についてはいかがでしょうか? と協働されていらっしゃいますね。
中道様:
最近の事例ですと、米国当局等がマネーロンダリングを防止する体制について、米国の銀行のみならず、日本の銀行に対しても不備の改善や体制強化を指摘するようになっています。そこで我々は、アンチマネーロンダリングのための体制強化や、リミディエーションと呼ばれる体制の不備が指摘された後の事後の対処等についてお手伝いさせていただいております。
movin:
それでは、この領域においては金融機関の業務や当局のガイドライン等に習熟していることが重要になりますね。
中道様:
おっしゃる通りです。金融機関出身でアンチマネーロンダリング含め、レギュレトリー(規制)やコンプライアンスの領域における経験や知見があり当局の動向をしっかりと把握している…といった金融領域の専門的な知見とスキルが必要となります。
movin:
各領域のお客様は、「Investigations」と「Digital Forensic」は様々な業種のお客様がいらっしゃり、3つめの「Innovation」は金融機関のお客様が中心になるのでしょうか?
中道様:
基本的にはご理解の通りです。但し「Innovation」関しては、Dispute(訴訟支援)やData Analytics分野においては特に業種を問わず幅広いお客様にサービスを提供しておりますので、「Innovation」の中でもアンチマネーロンダリングをはじめとしたFinancial Crime Managementの分野が、金融機関のお客様に特化した分野となります。
movin:
差支えなければ、Dispute(訴訟支援)とData Analyticsの分野においても、どのような案件に取り組まれているかお聞かせいただけますでしょうか?
中道様:
Dispute(訴訟支援)の典型的な案件としては、証券訴訟が挙げられます。例えば、何らかの不正・不祥事に応じて株価が下がった場合、その因果関係の有無を経済分析したり、更にそこで因果関係があった場合、その損失額はどの程度なのかという試算を行います。対象となる訴訟は、不正会計やカルテル、リコール問題等、様々な種類があります。いずれにおいても損害の算定という定量的な分析を中心にサポートしています。
movin:
「Data Analytics」についてはいかがでしょうか? 素人目には「Digital Forensic」と似た印象も受けますが、どのような違いがあるのでしょうか?
中道様:
「Data Analytics」分野では、例えば内部告発などで不正が発覚した場合に数字の並び方などから類似事例がないか調査するといった案件があります。
また、最近米国で拡大している分野としては「Quality & Safety Analytics」というものもあり、こちらは例えばメーカーで補償が発生している部品についてのデータと、顧客から相談窓口に寄せられている電話の内容を突き合わせて分析し、早期段階で商品の欠陥やリコールの可能性を把握するという取り組みになります。こういった事例も「Data Analytics」の一例として挙げられます。
movin:
すると、「Digital Forensic」が既に起きてしまった事件においてITを駆使して効率的に証拠・情報を集める分野で、「Data Analytics」はまだ起きていない事件・事故を未然に防ぐ・早期発見する分野という理解でよろしいでしょうか?
中道様:
「Digital Forensic」の分野でも事前対策を講じることがありますので、より正確に表現すると、「Digital Forensic」は膨大な量の情報を処理していくことに焦点を当てており、「Data Analytics」はそのデータの中のそれぞれの関係性や異常性を探索していくことが主眼になります。この2つは完全に切り離される領域ではないですが、各々に必要とされるスキルがやや異なります。