Movin:
本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、初めに鳴川様のこれまでのキャリアとカーライル様へのご入社のきっかけをお伺いさせてください。
鳴川様:
私の略歴を簡単に申し上げると、2008年4月にJPモルガン証券株式会社の投資銀行部門に入社し、M&Aアドバイザリーや資金調達に関する業務を約3年半経験しました。同社での仕事は非常に学びも多く、やりがいも大きい仕事ではあったのですが、第三者として本当に意味のあるアドバイスを出来るようになるためにもいずれにせよプリンシパルの立場で事業投資に関与することは必要であると考えたこと、またJPモルガンでも資源関連案件への関与が多く、資源投資に興味を持っていたことから、2011年10月に三菱商事の金属グループに転職しました。同社では豪州石炭事業の既存投資案件管理及び新規案件開発に従事し、東京本社での勤務を経た後、オーストラリアの子会社に約2年間駐在しました。現地では、複数のジョイントベンチャーの事業運営をモニタリングするとともに、事業開発案件の検討・実行も並行して担当していました。
Movin:
まさに一般的にイメージされる「商社の仕事」ですね。
鳴川様:
そうですね。入社後、比較的早く海外駐在の機会を与えていただき、且つ非常に優秀な方々に囲まれた職場であったこともあり、三菱商事では本当に貴重な経験を色々とさせていただきました。
商社における資源投資事業は、一部の例外を除いては原則的にマイノリティ投資であり、オペレーション自体は信頼できるパートナーである資源メジャーに委任した上で、それを株主の立場で適切にガバナンス/モニタリングするというビジネスモデルでした。そんな中で商社が自社にとってのバリューを最大化していくためには、M&Aという資本移動が起こる機会をタイミングよく活用し、マイノリティ株主として如何に最大限の権利を永続的に確保する契約上の仕組みやビジネス上の枠組みを作り上げるかという点に集約されており、そういう観点ではいわゆる事業開発の側面が非常に強いと感じる仕事でした。
事業開発の面からは、同社がグローバルに有している素晴らしい事業プラットフォームにおいて伸び伸びと仕事させて頂き、大いに成長できたと自負しておりますが、一方で、株主の立場として投資先をバリューアップする経験を積みたい、という思いは日に日に強くなっていきました。そういった中で、投資銀行・商社での経験を活かしながら投資先をバリューアップする経験ができる先ということでPEファンドへの転職を考え、縁あってカーライルに2014年7月に入社しました。
Movin:
ご入社されて、期待通りだった点も、良い意味でも悪い意味でもギャップがあった点もあったと思いますが、いかがでしたか?
鳴川様:
良い意味で驚いたのは仕事の幅の広さです。
PEファンドの仕事においては、会社が進むべき中長期的な方向性を捉えた上で、一定期間後のエグジットも見据えながら、時限性のある投資期間中にやるべきことを逆算して考え、優先順位を付けてスピーディーに実行していく必要があり、今までの仕事以上に、大局観や戦略眼が求められていると感じています。また、こういった大局的な観点のみならず、それに付随する数多くの細かい仕事においては逆に今までよりもより深いレベルまで突っ込んで手を入れていく必要があり、本当に全方位的な仕事になります。正直最初は驚きましたし、自分にできるのかやや不安に思うこともありましたが、いざやってみると非常にチャレンジングで面白味を感じるように変わっていきました。
Movin:
実際ご入社されてからはどのような業務をご担当されてきましたか?
鳴川様:
我々の仕事は大きくソーシング業務とモニタリング/バリューアップ業務に分かれ、ソーシング業務においてはシニアメンバーのマーケティング活動をサポートします。投資銀行のマーケティングと違うと感じるのは、対象企業のビジネスをどう見るか、またどうやって会社を更に成長させていくことが出来るのか、という点が非常に重要なポイントになるところで、入社直後からそれなりの数の投資先候補に対するソーシング業務を経験しましたが、大変勉強になりました。
モニタリング/バリューアップ業務については、私の場合は入社後から2社を同時並行で担当させていただくことになりました。1社はツバキ・ナカシマ社というベアリングボールの会社で、2015年の12月にグローバル・オファリングでIPOするまで密に関与していました。もう一社は、ウォルブロー社というキャプレターや燃料タンクといった汎用エンジン向けのコア部品を製造している会社で、こちらの会社については現在も引き続き関与を続けています。その他、2016年3月に資本参加させて頂いた九州ジージーシー社については、ソーシングからエグゼキューション、バリューアップまでの全てを一気通貫で担当することができ、今も引き続きバリューアップ活動を日々行っています。
Movin:
先ほど一部言及いただきましたが、投資銀行や商社の業務とPEファンドの業務の相違点としては、どのような点が挙げられますか?
鳴川様:
投資銀行の時と明確に違うのは、自分自身が決断する機会の多さです。当時はまだジュニアバンカーだったということももちろんありますが、アドバイザーという立場でもあり、投資銀行においては自らが何かを決めるという機会は少なく、基本的に1つ1つのタスクを丁寧に間違いなくこなしていくという役割でした。
商社での業務は、若手にしてはかなり裁量を与えていただいていたとは思いますが、やはり組織としては巨大であり、必ずしも最終的な意思決定プロセスには関与できないことも多かったというのは事実だと思います。
他方、カーライルでの業務においては、フラット且つコンパクトな組織であることもあり、意思決定プロセスにおいて自分の意見が求められる機会自体が非常に多いです。また、そこに合理性がある限りにおいては、そのままスピード感のあるアクションにまで繋がっていくことになり、個々人の責任は重い一方で、やりがいを持って仕事が出来る環境であると思っています。
Movin:
投資検討やバリューアップにおける考え方や進め方において、投資銀行・商社と異なる部分はございますか?
鳴川様:
案件のソーシングについては、先ほどお話しした内容と一部重複しますが、原則的にはシニアメンバーが主体となってマーケティングし、それを我々がサポートするという点では同じですが、提案する内容の視点が異なります。投資銀行においては、「M&Aやファイナンスというプロダクトをどのように売るか?」という点を考えることが多かったですが、PEファンドではより事業にフォーカスし、「どうやったら一緒に会社の価値を上げられるか?」という点を追求して提案しており、そこは投資銀行と異なると実感しています。
Movin:
バリューアップや投資先のモニタリングという観点では、いかがですか?
鳴川様:
商社の場合、事業グループによって大きくやり方が異なる部分があるので、私の経験を一概に当てはめることはできませんが、私が担当していた投資案件との対比で申し上げると、繰り返しになりますが、商社が投資のマジョリティを取ることは原則的に無く、ビジネスのオペレーションは基本的にマジョリティを持っている資源メジャーに任せるという形態をとっています。当然、資源メジャー側としても、商社のトレーディングネットワーク等を活用したいという思惑もあって、信頼できるマイノリティ投資家として商社とパートナーシップを組んでいるわけですが、実際に事業・組織面でのバリューアップに向けたアクションプランを株主の立場として提言して実行まで持っていくというのはそう簡単では無かったと感じています。
Movin:
難しい立ち位置ですね。
鳴川様:
そう思います。他方、PEファンドではマジョリティを取って投資をしているので、自分たちが本当に「○○をやるべきだ」と思えば、投資先と協議の上で、スピード感を持って、それを実行にまで持っていくことができます。ただし、我々が一方的に決めて押し付けたとしても結果的にそれがうまくいくことはありませんので、常に自分が投資先を経営している目線に立った上で、「会社の状況を考えると○○をしなければならない。そうするためには、○○を変えることが必要だ」と説得力のある形で発信していくことが重要だと思います。ハードスキルも当然大事なのですが、究極的には、共感力や発信力、説得力といったソフトスキルが強く求められる仕事なので、このあたりが最も成長が求められるポイントなのだと思います。また、先程も述べましたが、大局観を持つことが非常に重要です。目指すべきゴールから逆算して、今何をすべきかを洗い出し、それを実行するためにどのような組織・人材・外部エキスパートが必要で…といったことを常に念頭に置いて動いていく必要があり、むしろこういった大局観を持ちながら会社をサポートできることが、PEファンドの本質的な価値だと個人的には思っています。
Movin:
投資実行直後には100日プランを立てて投資先を支援されると思うのですが、具体的にはどのようなご支援をされたのですか?
鳴川様:
例えば、私が関わっている九州ジージーシー社の事例をお話しすると、まず前提として、同社はオーナー社長による事業承継ニーズが契機となった案件でした。社長自らが、毎日日報を読んで、営業、製造、その他あらゆる部署のキーパーソンに対して直接電話で指示をして…というマネジメントスタイルを取っていた会社でしたので、我々が投資後にまず始めたのは、永続的な事業成長を可能とする組織経営体制への移行を行うべく、組織としてPDCAサイクルを高速で回していくために経営の「見える化」や会議体の整備といった“仕組み作り”をスピーディーに進めるとともに、予算/事業計画の策定を通じた目標設定を通じて、経営陣・従業員の意識改革を図りました。また、カーライルのネットワークを活用し、事業戦略を遂行していく上で必要となる経営人材を外部から招聘して組織強化を行うとともに、外部アドバイザーを適材適所で起用することで、営業、マーケティング、製造等のオペレーション強化もサポートさせて頂きました。
Movin:
その中で特に大変だったポイントは何ですか?
鳴川様:
正直なところ全てが大変でしたが、敢えて挙げるとすれば、戦略的イニシアティブを遂行していくための組織を作るという点かと思います。結局機能するチームが無ければどんなプロジェクトも成功させることは出来ないので、場合によっては外部からの人材登用も含めて、経営陣と一緒に様々な議論を行い、一つ一つの課題に取り組んでいきました。
Movin:
おっしゃる通り人材採用は重要ですよね。採用において特に留意した点はございますか?
鳴川様:
スキルセットも当然重視しましたが、それ以上に投資先にうまく溶け込んで頂けるかどうかが最も重要だと思いましたので、その点を強く意識していました。投資先の経営陣とも活発に議論を行った上で必要な人材の採用を決めていきましたが、結果として現状の組織はうまく回り始めていると感じています。
Movin:
素晴らしいですね。逆に、これは失敗してしまったという点はありますか?
鳴川様:
九州ジージーシー社の事例に限ると特に大きな失敗は無かったと思いますが、一般論として、最初に仕組みの作り方を間違えてしまうと、それが予想以上に大きな影響を及ぼすということを、バリューアップ経験の中で痛感しています。
先ほどの話にもありました通り、我々は最初に経営の見える化や組織化といった「仕組みを作る」形で投資先を支援することが多いのですが、その仕組みの作り方を間違えてしまうと、後々まで尾を引いてしまいます。
例えば、見るべき経営指標が間違っていただとか、人材を外部から登用したものの組織としてうまく機能していない…といったイメージです。仕組み作りの本当に重要なポイントで間違ってしまうとなかなか改善が難しく、また本質的な問題が却って見えにくくなってしまっていることが多いです。こういった状況になってしまうと、PDCAが上手く回らなくなり、付け焼き刃的な施策は打つのですが、いつまで経っても抜本的に良くならない…という負のスパイラルに入ってしまいます。そうならないためにも、最初の仕組み作りにじっくりと時間をかけて、成功確率を高めることが重要だと思います。
Movin:
まさに、最初の100日プランでの取り組みが肝ということですね。
鳴川様:
付け加えるなら、最初の半年~1年ですね。先ほどの九州ジージーシー社の場合も、100日だけではしっかりとした仕組みを作り上げるのは難しく、半年経って形が出来てきて、1年経ってようやく会社がきちんと回り始めたという実感があります。もちろん会社のステージにもよるとは思いますが、最初の半年〜1年くらいはしっかり時間を使わないといけないと感じています。
Movin:
一部先ほどお伺いした内容と重複しますが、こういった業務の中で、前職・前々職の経験が活きた点としては、どのような点が挙げられますか?
鳴川様:
投資銀行で培ったハードスキル、例えばモデリングスキルやM&A・ファイナンスの知識・経験はそのまま活用できていると思います。また、三菱商事においては、マイノリティ投資家という立場でマジョリティをもっている資源メジャーと日々交渉しながら事業を進めていたわけですが、なかでも最後に取り組んだM&A案件はなかなか複雑な局面が多く、これを実務面でリードして進めていく経験を積ませて頂いたことで、プロジェクトマネジメント能力が鍛えられたと思っており、これは現在の職場でも大いに役立っています。