Movin:
御社の投資方針や投資スタイルの特徴についても改めてお伺いさせてください。
川原様:
目に見えて分かりやすい特徴としては、インダストリー制を敷いていることかと思います。カーライルのシニアメンバーは担当業種を持っており、MD3人がそれぞれ1つの業種に対して全責任を持ち、ディレクター、VPもいずれかのインダストリーに所属して、特定インダストリーへの知見を深めています。
Movin:
特定インダストリーに対する理解・専門性が投資活動において優位性を生み出していますか?
川原様:
そう思います。元々、アメリカのカーライルはインダストリー制を敷いているのですが、アメリカ以外でインダストリー制を敷いているのは、実は日本だけになります。
Movin:
そうですよね、他の国ではやっていらっしゃらないですよね。
川原様:
なぜ日本ではインダストリー制を敷いたかというと、背景として、日本ではいわゆるフィナンシャルエンジニアリングによる企業価値の向上、例えばバランスシートの資本構成を変えて会社の利益率を上げるだとか、リストラを伴うコスト削減をして利益を捻出するといった「会社をモノとして扱う手法」に対して、文化的にとても抵抗感を持つ傾向があります。そのような文化的な背景がカーライルの日本における投資スタイルにも影響しています。
そもそも上記のようなフィナンシャルエンジニアリングによる手法は、あまり業種を問わず通用でき、同じようにレバレッジを高くすれば、同じようにリターンが上がりますし、どの業種でもリストラをすれば短期的には利益率が上がります。
しかしながら、僕たちはトップライン、即ち売上を伸ばすことで企業価値を向上をしようとしています。「売上を伸ばす」というのはとても聞こえの良い言葉ですが、現実的にはとても難しいことで、
「簡単に売上を伸ばせるんだったら苦労しないよ」、
「俺たちが今まで頑張っても伸びなかったものを、どうして伸ばせるんだ?」
という話になります。
当然大変なことなのですが、僕たちはそれをやらないと日本においてプライベートエクイティの存在価値はないと考えています。そのためにどうすればいいかということを十数年間試行錯誤した結果、辿り着いた解の1つがインダストリー制で、その業種のインサイダーになることです。
最近では他のファンドでも「インダストリー・エキスパティーズを作る」ということを掲げていますが、我々はリーマンショック前からこういった取り組みを行っています。
Movin:
投資実行段階よりこのような議論をされているのかと思いますが、逆に投資実行後のフェーズでは、どのように投資先と関わり、ご支援されていますか?
川原様:
1つには、先程申し上げた議論を継続して続けています。
例えば、過去投資したソフトウェア会社の事例をお話ししますと、ソフトウェアにおいて現在の大きなトレンドはクラウド化なのですが、クラウド化をすると、今まで売り切りで販売していたソフトウェアが月額課金になるので、短期的には売上が下がってしまいます。
Movin:
既存のプロダクトとのカニバリゼーションが起きるのですね。
川原様:
その通りです。そんな環境を踏まえて、投資直後に改めて投資先の社長・主要経営陣と、クラウド化が一歩進んでいるアメリカで過去どのような事情が起きたか、具体的には、カーライルのシリコンバレーオフィスを訪問して、現地のメンバーも交えて議論したり、またシリコンバレーでのネットワークを活用して、同社と似た現地企業がクラウド化の波にどのように対応していったか、どのような点に困難があったか、なぜこの点が上手くいかなかったのか…という点を実際にケースとして取り上げた企業の経営陣にも来てもらい議論します。
そうすると、「10個あった論点のうち、この3、4つについては日本でも同じなことが起こるだろう。それに対してどのように対応すれば良いか?」ということを先んじて考え、手を打つ事ができます。このような議論は、投資実行後も継続して行っています。
Movin:
投資先の経営支援というと、もう少しオペレーション改善のようなお話が多いイメージがあったのですが、戦略立案のご支援が多いのでしょうか?
川原様:
もちろん、より現場レベルでの支援もします。
例えば、投資実行直後には100日プランを策定し、その実行を支援しますが、その期間中はカーライルのメンバーがずっと張り付いて支援します。
100日プランではたくさんのプロジェクトが立ち上がるのですが、各プロジェクトチームに必ずカーライルのメンバーが入ります。実際の業務においては投資先の社員が中心にはなりますが、カーライルのメンバーがプロジェクトマネジメントの役割を担い、
「前回はここまで議論したので、今日はこれを議論し、ここまで決めましょう。」
「○○というアクションプランは、誰が責任者になり、来週までの進捗はどこまでをゴールにしますか?」
「先週決めた○○の達成度はどうですか?出来なかったのはなぜですか?○○が原因ならば、今度は○○というやり方で進めましょう」
といった形で全体の議論をリードし、PDCAを回しています。
Movin:
他にも御社の投資スタイルで特徴的な点はございますか?
川原様:
「企業の経営は経営陣がすべきだ」と考える点もカーライルの特徴だと思います。自分がたまたまその業種に知見があり、一つのアイディアとして、経営陣に提案することは非常に良いことですが、自分の直感や中途半端な知識で、会社の経営そのものを左右してはいけないと考えているのです。
会社は限られたリソース、やるべきフォーカス、そして社員全員の想いといった要素が組み合わさって、会社の体を為しています。それを一番よく分かっている経営陣の人たちが、僕らの意見を踏まえた上で、それでも「こうするのが良い」と思ったことは、尊重するべきだと思っています。こういった経営陣との距離感の作り方は、ファンドによってかなり異なりますね。カーライルはその会社の文化や社員の求心力も含めて、「誰が会社を率いるのがベストか?」という点を熟考しており、多くの場合、現社長もしくは能力と求心力に秀でた当社社員に任せるべきという結論になります。
Movin:
直近の案件の状況はいかがですか?
川原様:
先程申し上げた通り、昨年も3件の投資を実行でき、非常に順調です。昨年に限らずコンスタントに潤沢なディールフローがある点はカーライルの大きな特徴かと思います。
PEファンドを志す若手にとって大事な要素は色々あると思いますが、報酬やワークライフバランス、仕事の楽しさといった要素もさることながら、何よりも自分を成長させる機会・良い経験を積める機会が一番重要ではないでしょうか?
その点、カーライルでの業務には「きつかったけど成長できた」と実感できる機会が多分にあると思います。その最大の理由が案件の豊富さで、ソフトな段階の案件まで含めれば格段に数は跳ね上がりますが、本格的な段階まで進んだ案件に限定しても年間10件程度を超える案件が走っており、メンバー全員が必ず2,3件に関われます。こういった本格的なフェーズにまで進んだ案件において、皆が額を寄せ合わせて、「どうすれば社長の膝を打つような提案になるか」、「この難しい状況をどうやったら解決できるか」
といった議論を頻繁にすることで、自身を大きく成長させる経験が積めます。