1967年にドイツ人のローランド・ベルガーにより設立されたローランド・ベルガーは、欧州を起点としたグローバル戦略コンサルティングファームである。グローバルに活動するコンサルティングファームは5〜6社あるが多くは北米で、欧州を起点としているのはローランド・ベルガーだけである。
現在、36カ国、51オフィス、2700人のスタッフで事業を展開。約1000件のクライアント企業にサービスを提供している。東京オフィスは1991年に設立され、現在100人のコンサルタントが、さまざまな企業にコンサルティングサービスを提供している。日本オフィスで情報通信産業グループの責任者を任されているのが大野氏である。
大野氏は、「古今集に紀友則の“ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ”という歌があるように、桜の花は日本人にとって特別なものである。それではグローバルでは、桜の花はどのように捉えられているのだろうか。おそらく日本人が感じている桜の花とは、違うイメージを持っているのではないかと思う」と話す。
ローランド・ベルガーの東京オフィスには日本人だけでなく、中国人、韓国人、ドイツ人、フランス人のコンサルタントが在籍している。すべてのスタッフは、日本語が堪能で、それぞれの国の大学を卒業し、日本の大学院を卒業して、日本企業に勤めた後にローランド・ベルガーに入社している。
「私自身、現在はドイツの会社に在籍しているが、その前はインドの会社、その前は米国の会社で働いていた。職業柄外国人と仕事をすることが多いが、日本語での会話という点ではまったく問題ない人もたくさんいる。しかし、和歌や俳句の世界を理解するなどの文化的な面では、感覚的に通じあえないことがある」(大野氏)。
大野氏は、「文化の違いが仕事に影響するわけではない。しかし“グローバルで戦うためのIT戦略”というテーマにおいて、ダイバーシティや多様化をどのようにマネージメントするかは、IT戦略を推進していくうえで重要なポイントになる」と話している。
1990年より実施されている「コーポレートHQスタディ」
ローランド・ベルガーでは、「コーポレートHQスタディ」と呼ばれるサーベイを1990年より実施している。約86社を対象とした2013年の調査では、「重心の変化」「仮想コラボレーション」「サポート機能の分散」「国際化」「ロールシフト」「役割の多様化」の大きく6つのテーマで実施されている。
「企業のIT部門の多くは、本社(HQ)機能として位置づけられているが、HQに求められる付加価値は、時代により変化している。そこで、コーポレートHQスタディの結果をもとにして、グローバルで戦うためのIT戦略について、組織論的に考えることが必要になる」(大野氏)
コーポレートHQスタディの結果では、約80%の企業がビジネスの重心の変化に対応できていないと感じていると答えている。ビジネスの重心の変化とは、例えば欧州企業であれば、これまでビジネスの中心が欧州だけだったが、アフリカ地域へと拡大しているなどの変化への対応である。
2つ目に仮想コラボレーションの重要性である。これまで、欧州、米国、日本、中国、それぞれの拠点で情報を共有できればよかった。しかしビジネスの拠点が広がっていることから、拠点間のコミュニケーションや共同作業の機会が増えている。これを加速させることをHQは強く考えなければならないと考えている企業は53%になる。
3つ目のサポート機能の分散では、情報システムだけでなく、調達やリーガルなど、より大きな視点でコーポレート機能を分散し、管理していくことが必要と69%の企業が答えている。また国際化に関しては59%が強化すべき、ロールシフトに関しては55%の企業がビジネスパートナーを目指すべき、役割の多様化は77%がさらに進むと答えている。
HQが果たすべき4つの役割
HQが果たすべき役割は、権限の大小と共同作業の範囲により、「共通サービス提供者」「コンシェルジェ」「マネジャー」「守護者」の大きく4つに分類される。(図1)共通サービス提供者は、いわゆるシェアードサービスのようなイメージで、効率化やコスト削減に貢献することが必要。SLA(Service Level Agreement)に基づいて各拠点に共同サービスなどを提供する。
大野氏は、「情報システムで考えてみると分かりやすいが、グローバルに事業を展開している大手の金融業や製造業においても、HQが中心となってシェアードサービスを提供している企業はそれほど多くない。共同作業の範囲は広く権限は限定的ではあるが、共通サービス提供者の役割は重要になる」と話す。
またコンシェルジェでは、人や組織のコーディネーションなどを通じて、ノウハウやノウフウを共有したり、イノベーションに貢献したりすることが重要な役割となる。「コーポレートHQスタディの結果からも分かるとおり、この部分がもっとも強化すべきポイントである」と大野氏は言う。
3つ目のマネジャーの役割は、基本的にはグローバルの戦略を策定し、資源配布を遂行して、実行のマネージメントやモニーターを実施する。このPDCAサイクルは、実現している、していないに関わらず、昔から取り組まれているもの。最後の守護者は、全社的なビジョンやガバナンスの方針を策定し、違反した場合の処罰規定することが役割となる。
IT部門に求められる4つの役割
HQが果たすべき役割の中で、IT部門は何をすればよいのか。企業の経営トップがIT部門に求める役割は、「マネージメント・インフォメーション・システム(MIS)」「KPI/インセンティブのスキーム」「ITインフラストラクチャ」「ナレッジマネージメント」の大きく4つにまとめられる。(図2)
MISでは、グローバルにおけるオペレーションの標準化、情報提供の精度やスピード化が求められている。具体的なソリューションとしてERP(Enterprise Resource Planning)やSCM(Supply Chain Management)、CRM(Customer Relationship Management)などがある。KPI/インセンティブのスキームでは、戦略と整合した測定可能なゴールを設定し、報酬やバランスドスコアカードなどのアプリケーションを活用できる仕組みが求められている。
ITインフラストラクチャでは、クラウドも含む、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどのリソースをいかにグローバルで活用していくかが求められる。ナレッジマネージメントは、古くて新しい言葉であり、現在ではコンテンツマネージメントやソーシャル、コミュニティの導入から定着、加速までが求められている。
大野氏は、「現在、多くの企業が企業内ソーシャルに注目している。企業内ソーシャルは有効なのかと聞かれることが多いが、使い方しだいだと思っている。個人的には懐疑的な部分もあるが、新しいテクノロジーを使うことなく、頭から否定することも愚かなことだとも思っている」と話している。
オンプレミスとクラウドのハイブリッドを採用したHILTI社
グローバルで戦うためのIT戦略の事例の1つとして、クラウドの活用が挙げられる。例えば、1941年にリヒテンシュタイン公国で設立されたHILTI社は、基幹業務システムとしてSAP R/3をオンプレミスで導入していたが、グローバルでシステムを統合することを目的に、グループ会社にクラウド型のERPであるSAP Business ByDesignを導入した。
121カ国で建設業向けの工具や材料を製造、販売する従業員2万人以上のグローバルカンパニーであるHILTI社がクラウド型のERPを採用した目的は、財務報告や業績管理を本社で一元的に管理するためである。また、購買の本社管理、支払い処理や給与処理の本社集中、マスターデータ管理など、業務プロセスの標準化も目的の1つだった。
「HILTI社では、クラウド型のERPを利用することで、短期間かつ容易にグローバルのシステム統合を実現した。日本でグローバルに事業を展開している企業においても、本社システムはオンプレミスを中心とし、グループ会社にはクラウドを適用することが現実解といえる」(大野氏)
大野氏は、「今後は、本社もオンプレミスだけでなく、IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)の上でERPを動かすという事例も出てくることが予測される。しかし、すべての会社が基幹システムをオンプレミスとクラウドのハイブリッドにする必要はなく、ビジネスのやり方や必要に応じてシステム構成を選択すればよい」と話している。
グローバルで戦うには創造的破壊も必要
「ここ数年、グローバルIT-HQという話題を耳にするようになった。しかしグローバルIT-HQは、一朝一夕には実現できない。個人的には、グローバルIT-HQの実現は、まだまだ先という感覚である」と大野氏は言う。グローバルIT-HQを実現するには、「Strategic Direction」「Manage Complexity」「Work in Global network」「Ensure Execution」「Strengthen Innovation」というサイクルを回していくことが必要になる。
Strategic Directionで「いかにITをグローバルに展開するか」という戦略を明確にし、Manage Complexityで「技術や人の管理、文化や商習慣、言語などの違い」を管理する。さらに、Work in Global networkで「いかにグローバルで各拠点のIT担当者を活用するか」を明らかにし、Ensure Executionでシステムを構築・運用、そしてStrengthen Innovationでイノベーションを推進する。
ただし、それ以前に足下で取り急ぎ考えなければならないことも多い。例えば、クラウドの利活用は本当にシステム部門の変革につながるのかといった問題である。大野氏は、「クラウドの利活用によりできた空き時間で、より付加価値の高い仕事にフォーカスし、コストセンターからプロフィットセンターに変革するというがそれほど簡単ではない。付加価値の高い業務を実現するためには、担当者の能力も関係する」と話す。
また、これまでのシステム構築はシステム部門に依頼することが必要であり、ハードウェアを中心とするIT資産を生かした、オンプレミスでの構築が前提だった。しかしクラウドの利活用により、ユーザー部門による自発的なシステム構築が増えてくる。大野氏は、「クラウドではIT資産の管理というシステム部門の特権がなくなる。特権がなくなるのはよいが、全社としてデータに対するガバナンスが失われることは問題である」と言う。
さらにITを駆使した新しいビジネスを、システム部門はリードできているのかということも考慮が必要。最後にいっそう厳しくなるコスト削減プレッシャーをどうするかを考えることも必要になる。「考えるべきは、大きく3つ」と大野氏。まず1つ目に、システム部門以外は手を出しにくい部分に果敢に挑むこと。2つ目に、堅さや慎重さも必要だが、「とりあえずやってみる」という楽観主義。最後に創造的破壊を進める勇気である。
大野氏は、「人事部門ではやりにくいタレントマネージメントや営業・マーケティング部門だけでは手に余るオムニチャネル、開発部門が躊躇しがちなフルーガル(倹約)エンジニアリング、さらによく分からないビッグデータなどにチャレンジしてみる。また、とりあえずクラウドを使ってみて、ダメならやめればいい。いまの仕事を捨てる勇気も必要であり、新しい姿に変えていくことが重要である」と締めくくった。
2014年 4月23日
Itmedia
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