近年、公認会計士が監査法人から大手企業へとキャリアを移す動きが加速しています。背景にはいくつかの要因があります。

まず一つ目は、ワークライフバランスの改善です。監査法人では繁忙期の残業が多く、長時間労働が常態化しているケースも少なくありません。一方、大手企業では働き方改革の影響もあり、フレックスタイム制度やリモートワークなどを導入している企業が多く、より柔軟な働き方が可能です。

二つ目は、事業会社側での会計士ニーズの高まりです。企業は内部統制やガバナンス強化を求められる場面が増えており、会計や監査の専門知識を持つ人材へのニーズが拡大しています。

さらに、公認会計士の中には「より経営に近い立場で仕事をしたい」「財務以外の視点も取り入れた業務を経験したい」というキャリア志向を持つ方も多く、経営企画やM&A関連業務などへの関心も高まっています。

このように、「専門性を活かしながら新しいキャリアに挑戦したい」という意欲と、企業側のニーズのマッチングが、転職増加の大きな要因となっています。

転職市場において、公認会計士は専門性の高さと信頼性のある資格という点で、非常に評価が高い人材です。

特に以下のようなポジションでは、公認会計士の資格が武器になります：

経理・財務部門
IPO準備企業のCFO候補
内部監査・内部統制・コンプライアンス対応部門
経営企画・事業戦略部門
M&Aや投資戦略部門

とくに2020年代以降、上場準備企業（スタートアップ）やグローバル企業では、会計士のスキルを活かした組織強化が進んでいます。

また、コロナ禍以降の「企業の財務健全性」への意識の高まりもあり、資金調達・財務戦略を支える会計士の存在感は増す一方です。

結果として、公認会計士の保有資格者は、転職エージェント各社の中でも引き合いが多い専門職として常に注目されています。

大手企業に転職する公認会計士の多くが選ぶのが、安定性と成長性を兼ね備えた業界です。以下は、特に人気の高い業種です。

■ メーカー（製造業）
老舗からグローバル展開する大手まで、公認会計士が活躍する場が多いのがメーカー業界です。製品原価や在庫管理など、監査で得た知見を経理・財務に活かせるほか、原価計算やグループ会社管理の知識が求められます。

■ IT・テクノロジー企業
急成長するスタートアップや上場準備企業では、会計・内部統制・IPO準備などの観点から会計士を積極採用しています。比較的柔軟な働き方やスピード感ある意思決定が魅力とされ、経営企画やCFO候補としての採用もあります。

■ 金融（銀行・証券・保険）
金融業界では、リスク管理・投資評価・M&A関連の専門知識を活かして働けるケースがあります。特に大手証券会社やメガバンクでは、ファイナンスに強い会計士を財務戦略や審査部門で求める傾向があります。

■ コンサルティングファーム（事業会社内の戦略部門含む）
事業再生やM&A、財務デューデリジェンス（FDD）などを担当するコンサル系業務にも進む方が増えています。「監査から一歩踏み込んだ提案型の仕事がしたい」という方に人気です。

公認会計士が大手企業で就くことが多い職種は、以下のようなものがあります。

■ 経理職（主計・連結・開示）
上場企業では、決算・連結・有価証券報告書の作成などが主な業務。公認会計士の専門知識がダイレクトに活かされるポジションです。とくに開示資料作成やIFRS対応などは、会計士経験者にとって即戦力とされる分野です。

■ 財務職（資金繰り・資本政策）
資金調達、キャッシュマネジメント、銀行折衝などを担当。財務の現場で数字の分析力・交渉力が活きる職種です。

■ 内部監査・内部統制（J-SOX対応含む）
大手企業では、グループ全体のガバナンス強化が重要課題となっており、内部統制の整備・評価を担当する会計士の採用が活発です。

■ 経営企画・事業戦略
経営陣に近い立場で、中期経営計画・予算策定・KPI分析などを行うポジション。特にM&A戦略や新規事業立案など、ビジネス視点が求められます。

■ M&A関連職（PMI、FAS、デューデリジェンス）
買収・統合に関する財務分析や、統合後の経営支援（PMI）など、高度な専門性が求められる分野ですが、会計士の経験は非常に重宝されます。

公認会計士が大手企業に転職した場合の年収水準は、ポジションや企業規模、業種によって大きく異なりますが、以下は一般的な目安です。

特にグローバル企業や上場企業の管理職レベルでは、年収1,000万円を超えるケースが多く、成果や実力次第でさらに上を狙うことも可能です。

また、業種別に見ると、以下のような傾向があります：

金融業界（証券・保険）：報酬水準が高く、年収1,200万円超の実績も多い
IT企業（成長企業）：ストックオプションや賞与込みで高収入も可能
メーカー・商社：安定性重視で福利厚生が充実、年収800?1,000万円程度が一般的

■ 年収の違い
監査法人では、スタッフ?マネージャークラスで年収600?1,000万円程度が相場です。一方、大手企業ではポジションや業種によっては監査法人以上の報酬水準が得られる場合もあります。

特に経営層に近い立場（経営企画やCFO候補など）に就くことで、より高収入が期待できます。

■ 働き方の違い
監査法人：繁忙期の長時間労働が課題。クライアント対応が中心。
事業会社（大手企業）：比較的安定したスケジュールで、社内の長期的な業務に携わる傾向。リモートやフレックス導入企業も増加。

■ キャリアの視点からの違い
監査法人では同じ業務の繰り返しになりやすい反面、大手企業ではプロジェクト型の業務や経営判断に近い経験が積めるのが大きな特徴です。

大手企業が公認会計士に求めるのは、単なる会計知識だけではありません。以下のような実務経験・ビジネススキルの組み合わせが評価されます。

■ 評価されやすい経験・スキル例
上場企業の監査経験
→ 実際の開示資料や内部統制に精通している点が強みになります。

IFRSやUS-GAAP対応経験
→ グローバル展開企業での需要が高く、連結決算業務に直結します。

コミュニケーション能力・調整力
→ 経営企画や内部監査では、社内外の関係者と調整する場面が多いため、単独作業より対人折衝力が重視される傾向にあります。

Excel・PowerPoint・BIツールの実務活用経験
→ 経営企画などでは数字を「見える化」して経営層に伝える力が求められます。

マネジメント経験（チームリーダー等）
→ 部門の中核人材として期待されるため、若手でもマネジメント志向があると有利です。

大手企業への転職は、半年程度のスケジュールを見込むと余裕を持って進められます。

一般的なスケジュールの目安

情報収集・自己分析（?1ヶ月）
- どの職種・業種が合うかを検討
- 転職サイト・口コミなどで企業研究

エージェント登録・書類準備（1ヶ月目?）
- 履歴書・職務経歴書の作成
- 公認会計士としての強みを言語化する準備が重要

求人応募・面接（2?4ヶ月目）
- 書類選考→2〜3回程度の面接（＋適性検査ありの場合も）
- 面接では「なぜ事業会社か？」「今後どうなりたいか？」がよく聞かれます

内定・入社準備（5?6ヶ月目）
- 内定承諾後、現職の退職交渉・引き継ぎ
- 会社によっては入社日調整に柔軟に応じてくれることもあります

※タイミングによっては早ければ3ヶ月以内で決まることもありますが、じっくり準備する方が失敗しにくいのが実情です。

プロフィール
年齢：32歳
経歴：監査法人で6年勤務（主に製造業クライアント担当）
転職先：上場大手メーカーの経理部（連結決算担当）

転職理由
繁忙期の働き方に限界を感じた
クライアント支援ではなく、自社の経営に関わるポジションに就きたかった

採用された理由
担当していた製造業の知識と連結決算の経験が企業ニーズに合致
業務理解が深く、入社後すぐに活躍できる即戦力と評価された

年収
監査法人時代：約750万円
転職後：約850万円（＋賞与や福利厚生充実）

転職後の感想（本人談）
「繁忙期の残業は減り、生活に余裕ができました。
数字だけでなく、どう経営に貢献するかを考える仕事ができて、仕事のやりがいも増しました。」

プロフィール
年齢：35歳
経歴：監査法人 → 外資系FASでM&A関連業務経験
転職先：急成長中のIT上場企業 経営企画部

転職理由
M&Aのアドバイザーではなく、自社の成長戦略に深く関わる仕事がしたかった
キャリアの次のステップとして経営に近いポジションを希望

採用された理由
M&Aの知識・プロジェクトマネジメント力が経営企画部の業務に直結
プレゼン能力・資料作成スキルも高評価

年収
FAS時代：約1,000万円
転職後：約1,200万円（ストックオプションあり）

転職後の感想（本人談）
「戦略を考え、それを自分の手で実行する面白さがあります。
単なる数値管理ではなく、経営そのものに関与している実感が持てるのが魅力ですね。」

プロフィール
年齢：28歳
経歴：監査法人で3年勤務（IPO準備企業やIT企業の監査担当）
転職先：大手コンサルティングファーム（FAS部門）

転職理由
「監査」よりも「提案型の業務」に挑戦したいという思い
将来、経営企画や戦略業務に関わるための土台を築きたかった
若いうちに幅広い業界知識やプロジェクト経験を積みたかった

採用された理由
IPO支援や内部統制構築の実務経験が高く評価された
若手ながら、論理的思考力・プレゼンスキルに優れていた
会計士としての資格に加え、主体的に動ける姿勢とポテンシャルを買われた

年収変化
監査法人時代：約600万円
転職後：約700万円（残業代・賞与込み）
※成果次第で早期に昇給・昇格が可能な環境

転職後の感想（本人談）
「最初は慣れない環境でしたが、案件ごとに違う業界・テーマに関われて刺激的です。
業務範囲も広く、将来のキャリアの選択肢が広がっていると実感しています。」

公認会計士としての専門知識と実務経験は、今や監査法人だけにとどまらず、大手企業における多様なポジションで高く評価される時代です。

特に以下のような方にとって、事業会社やコンサルティングファームへの転職は、将来的なキャリアの幅を広げる大きなチャンスとなります。

経営の意思決定に関わるポジションに進みたい方
ワークライフバランスを改善したい方
業種や業務の幅を広げて成長したい方
年収や待遇のステップアップを目指す方

実際に多くの会計士が経理・財務・内部監査・経営企画・M&A関連などのポジションで転職に成功しており、その後のキャリアアップにもつながっています。

また、20代の若手会計士がコンサル業界にチャレンジする例も増えており、年齢に関係なく「行動する人」が次のステージを切り拓いています。

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