ベイン・アンド・カンパニーは、2016年のアジア太平洋地域の
プライベート・エクイティ(以下、PE)業界レポートにおいて
史上2番目のディール水準を享受したものの、価値創造の源泉はシフトしつつあり、
PEファンドには新たなアプローチが求められていると注意を喚起しています
昨年のアジア太平洋地域のPE業界は活況にありました。地域や国際情勢の不安定さにもかかわらず、アジア太平洋地域全体のディール総額は史上最高であった2016年に次ぐ水準となりました。活発な市場環境であった一方で、「安く買って高く売る」時代は地域全体で終焉を告げています。価値創造の源泉の変化とリターン低下のプレッシャーが、PEファンドにコストと資本効率および追加M&Aを通じた新たな価値創造のレバーの追求を迫っています。
アジア太平洋地域のPEディール数値の振り返り
ベイン・アンド・カンパニーの最新の「アジア太平洋・プライベート・エクイティ・レポート」では、メガディールの減少から2016年の投資モメンタムはやわらぎ、全体のディール活動は減速傾向にあったと述べています。ディール総額は底堅かったものの、2015年の1240億ドルから920億ドルまで減少しました。ディール数は2015年同地域おいて初めて千件の大台を突破しましたが、2016年は892件まで減少しました。中国・インドを中心にインターネット系の企業(昨年のディール数の3分の1以上を占める)への投資家の関心は依然と高く、引き続き市場の活力の源泉となっています。また、政府系投資家及び機関投資家は、PE市場において重要なポジションを維持し、10億ドル以上のディールの57%に関与(グローバルではバイアウト総額の18%にとどまる)しています。一方、アジア太平洋地域では潤沢な資金流入が継続しており、ファンド資金の総額はほぼ横ばいとなりました。
イグジットについては、極めて多くのイグジットが成立した2014・2015年に比べ、2016年は主に中国株式市場におけるIPO環境の鈍化に起因して縮退しました。他のアジア太平洋諸国においては、PEポートフォリオ内の売却時期を迎える大規模アセットの減少に伴いイグジットが減少しました。その結果、地域全体のイグジット総額は、史上最高額の1150億ドル(2014年)から過去平均水準の740億ドルまで縮小しました。一方、インド、韓国、東南アジアでは、大規模イグジットが複数成立し、活発なイグジット環境となりました。
ベインのアジア太平洋PEプラクティス・リーダーであるスビール・バルマは、「史上最高に好調な市場環境であった2015年の翌年となる昨年は、PEファンドにとって市場の期待値を上回るリターンを生み出すことがより困難となり、厳しいディール環境になることは予想していました 」と述べています。また、「一方、こうした困難なディール環境下でもPEファンドは高い実績を残しており、2015年は史上二番目のディール総額となりました。今後は、不確定要素が多い環境下で好調なモメンタムを維持していくことが求められています」と指摘しています。
新たな価値創造の源泉の追求
アジア太平洋地域では、ディール・マルチプルが最高値に達し、米国の水準を上回りました(アジア太平洋17倍、米国10倍)。買収マルチプルの増加は、金利の引き締めと共に、従来型利益創出を圧縮しており、PEファンドは従来の方法に頼らず新たな価値実現の手法を模索することが求められています。
ベインでは地域における約120のジェネラル・パートナー(GP)と直接投資家を対象にアンケートを実施しました。調査によると、5年前にイグジットしたディールに関して、約5分の1(22%)がコスト削減と資本効率向上を最も重要な価値実現の要素として挙げ、6%の回答者がM&Aを挙げています。一方で今後5年間については、これらのレバーの重要性が大幅に増すことが予想されており、GPの37%は収益性向上を、20%以上はM&Aを挙げています。 一方、多くの回答者が、マルチプルの拡大とレバレッジの重要性は低下すると予測しています。
売上の伸長は、最も重要な価値実現の要素であり続けるものの、今後5年間で頭打ちになることが予想されています。
中国市場におけるベインのPEプラクティス・リーダーのキキ・ヤンは、「PE投資からより多くの価値を創出することがこれまで以上に重要となっています。そして、それは以前のように簡単なことではありません」と指摘しています。また、「新たなアプローチを駆使し、好条件のディールを獲得した上で新規の価値創造を実現する必要があることを理解しているファンドが、今後成功していくことになるでしょう」とも述べています。
本調査によると、GPの半数以上が、新たな市場環境下で成功していくための最重要要素として、これまでの枠組みにとらわれないクリエイティブな価値創造プランを挙げています。また、多くのファームはその重要性を高めつつも、より首尾一貫して実行することの重要性も併せて指摘しています。 約3分の2の回答者は、8割以上のポートフォリオカンパニーにおいて、価値実現のための価値創造計画を作成したと答えていますが、計画通りに結果が出たと感じたのは19%に過ぎませんでした。
また多くのGP(46%)は、投資テーマにより即したデュー・デリジェンスによって対象企業やセクターへの独自の視点を持つことが、ディールに勝ち、リターンを実現していくことにつながると考えています。
さらにGPの36%は、ディールを成功させるためには、より効果的に案件のソーシングを実施し、投資対象企業へのエクスクルーシビティを確立させることが重要であると述べています。 しかし、競争が激化する中で、こうしたソーシングを実現することの難易度は増しており、アジア太平洋地域において最適なソーシングを実行できているファンドは全体の3分の1未満にとどまるとみられています。
アジア太平洋地域各国におけるPE市場の概況
アジア太平洋地域におけるPE市場全体は堅調に推移したものの、国別の実績には大きなばらつきが見られます。
日本:史上最大規模のディールに支えられ、ディール総額は100億ドルを突破、過去の平均総額に対し53%増となり、2007年以来の史上最高の年となりました。ノンコア事業のカーブアウトに伴い一定数のディール創出が維持される一方、大規模ディールの減少と競争の激化により、今後PEが困難に直面する可能性があります。
中国: PEファンドの投資対象企業数の豊富さから、大中華圏はアジア太平洋地域のPE市場全体に対する牽引力を維持。2016年の投資総額は490億ドルに達し、昨年と比べ減少しているものの、5年平均を30%上回っています。 しかし、ネガティブな要素も散見され、成長の減速、企業の負債、過剰なバリュエーションにより、これまでと同様の成長率を維持することが困難になってきているようにも見受けられます。
インド:インドにおけるPE市場は昨年も活発な1年となりました。ディール総額は2015年の190億ドルから150億ドルへと減少したものの、過去の平均値より高い水準を維持しました。 イグジットも引き続き活発で、バランスの良いポートフォリオ構成と高い成長率への期待から、5年平均と比べ金額ベースで114%増を達成しました。インド 全土でPE業界に対する関心が高まる一方で、期待外れなリターン、過剰なバリュエーション、競争の激化が投資の勢いに対しネガティブな影響を及ぼしています。
東南アジア:豊富な投資対象企業数とGPネットワークの発展に伴い、同地域におけるPE市場は着実に拡大し続けています。ディール総額は68億ドルに達し、5年平均と比較し14%増加しました。 しかし同地域は、価格の高騰や競争の激化、地域のマクロ的な課題に面しています。
韓国: PE業界は、豊富な投資対象企業数、キャッシュ・アウト及びノンコア事業のカーブアウトの恩恵を受けたものの、過剰な価格設定とディールに対する競争の激化に伴い困難な状況に面しています。メガディールの不足に伴いディール実績が悪化、2016年のディール総額は60億ドルと、過去平均に対し29%の減少となりました。
オーストラリア:PE資金は豊富であり、セカンダリー市場も活発である一方、規模が大きく質の高いターゲットの数が減少しており、市場全体は縮小傾向にあります。中国主導のディール・高額のディールを敢えて避けたため、昨年のディール総額は2015年の100億ドルから50億ドルに半減、過去5年平均に対し36%減少しました。
2017年 3月16日
bain.com
ベイン・アンド・カンパニー
1973年にビル・ベイン他4名のコンサルタントによって設立され、2010年1月現在、世界27ヵ国の41拠点に事業所を展開している。プロジェクト後における顧客の企業価値の変化をモニタリングするシステムを導入する他、姉妹企業としてプライベート・エクイティ・ファンドのベインキャピタルや、非営利組織に特化したコンサルティングファームのブリッジスパングループを立ち上げるなど、コンサルティング業界に常に変革をもたらしつづけるイノベーターとしても知られる。
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