野村総研、証券業務システム刷新　「他社と共同利用」、成長へ追い風

野村総合研究所（ＮＲＩ）が、証券最大手、野村証券向けに社運を懸けたシステム刷新のプロジェクトを進めている。自社専用の特注システムにこだわってきた野村証券が、個人取引の証券業務システムを他社との共同利用モデルに切り替える案件で、野村にとっては大きなシステム戦略の転換だ。ただＮＲＩにとってのこの案件の特別な重みは別のところにある。
　野村証券が新たに導入するのは、ＮＲＩが開発した「ＳＴＡＲＩＶ（スター・フォー）」と呼ばれるシステムで、口座管理から注文処理、内部統制管理に至るまで証券業務に欠かせないあらゆる機能を網羅している。野村は、５００億円をかけて既存システムを同システムに切り替える計画で、現在は２０１３年１月の運用開始を目指してテストを重ねている最中だ。
　ＮＲＩは、連結売上高の約６割を金融業界向けのシステム事業が占めており、最大の顧客は主要株主である野村ホールディングス（ＨＤ）傘下の野村証券だ。最大の得意先の中核システム刷新となれば、その重要性は言うまでもないが、ＮＲＩの嶋本正社長は今回の案件は「これまでとは意気込みが違う」と話す。
　実は、スター・フォーはすでに中堅・中小の証券会社約５０社が採用済み。同システムは複数の証券会社がＮＲＩのデータセンター経由で業務ソフトを利用し合う共同利用の仕組みで、「割り勘」になる分だけＩＴコストを抑制できる。野村が「特注」へのこだわりを捨てたのも、海外事業の収益悪化に苦しむ中でのコスト削減が一因。共同利用への転換で、システム導入から数年後には年間２００億円程度の経費抑制になると見込んでいる。
　野村の経費抑制は一見、ＮＲＩの収益への逆風と映るが、むしろ嶋本社長はこの機会を「野村の看板」を越えた成長のチャンスとみている。業界のガリバーと呼ばれる野村の採用で、共同利用システムへの評価が高まり、証券業界の大半を顧客として取り込めるとの計算だ。
　「野村向けも伸ばすが、ほかを伸ばしていかないと成長しない」との危機感を持つ嶋本社長にとって、野村のスター・フォー導入が社運を懸けるほどの重みを持つ理由はここにある。
　金融向けシステム事業を統括する石橋慶一専務執行役員が「規制が多い金融業界は差別化が難しく、独自のシステムを持つ必要性は薄れている」と指摘する通り、今後、「所有から共同利用へ」の転換は市場の大きな潮流になる可能性がある。
　最大顧客の戦略転換を「共同利用は当社のＤＮＡ」（石橋氏）という自らの事業戦略の追い風にできれば、ＮＲＩには「野村の看板」を越えた新たな成長路線が開けそうだ。（井田通人）

2012年 9月21日
SankeiBiz

野村総合研究所
日本の最大手シンクタンク、コンサルティングファーム、システムインテグレーター。顧客の問題を先取りして解決策を導き、具体的な解決策を実施・運用していく、一貫したトータルソリューション（ナビゲーション×ソリューション）を提供できる総合的な体制に特色がある。ナビゲーション、ソリューションそれぞれのサービスにおいて、専門性が特化されてきた分野について、積極的に分社化し、NRIグループを形成している。金融業・流通業に強みがあり、日本郵政公社(現 日本郵政グループ)の郵政総合情報通信ネットワーク、簡易保険システムの構築など、公共分野も拡大している。ソリューションは、(1)社会・産業の予測と展望、(2)市場分析・業務分析・経営診断、(3)企業経営・政策立案に関する提言、(4)経営・業務革新のソリューション提示、(5)システム設計・ソリューション提供、(6)アウトソーシング・システム運用、(7)ビジネスの実行支援、の7つで構成される。

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