福祉負担額より財政収入上回る　前橋版ＣＣＲＣ　移住で試算

　住居や医療・介護などの施設を集めた拠点を整備し、首都圏からの移住を促すＣＣＲＣ構想を検討する前橋市が、移住ニーズや財政影響額を探るため民間委託した調査結果の概要が分かった。前橋への移住者数の規模や年齢層を変えた三つのケースで試算したが、いずれも五十年間でかかる医療介護の負担額より社会保険料や市民税の収入分が上回り、さらに数十億円を超える経済波及効果があると見込んだ。一方、介護現場の人材不足の懸念から計画的な確保対策の必要性を指摘された。　（川田篤志）
　市は、二〇一八年に上川淵地区に移転する前橋赤十字病院の跡地（朝日町）に、前橋版ＣＣＲＣの拠点の一つを整備したい意向で、県や病院側と調整中。今後は県や民間とつくるコンソーシアム（共同体）を設置し、この調査結果も踏まえた基本構想を本年度中にまとめたい考えだ。
　調査を担当したのは三菱総合研究所。試算の想定は、二十五〜六十九歳が市中心部に計二百七十人移住した「多世代まちなか」と、同じ年齢層の移住者が市全域に計五百六十人の「多世代全市」、五十〜七十九歳が計百六十人移住した「単身高齢者メイン」の三ケース。いずれも移住者数は五年間で流入してきた総計で、彼らが市の財政や経済に与える五十年間の影響額をはじいた。
　市が最も期待する想定の「多世代全市」は、社会保険料と市民税の収入額が計百三十一億円あり、医療介護の負担額を大幅に上回った。関連産業の雇用創出など経済波及効果は百五十四億円と試算。移住者がより少ない「多世代まちなか」も同様の傾向だった。
　厳しい試算が予想された、移住者の半数が要介護認定の「単身高齢者メイン」でも収入額が負担額を約三億円上回った。ただしこの試算は、介護費を転居前の自治体が負担する「住所地特例」の対象となるサービス付き高齢者住宅などに、要介護認定の移住者全員が入所できることが条件。
　介護人材の需要は高まるため、三菱総研は「現在の担い手不足が続くとすれば、計画的に育成・確保する必要がある」と指摘した。
　移住ニーズや前橋版ＣＣＲＣの関心度なども合わせて調査。アンケートの主な対象は、東京都と神奈川、埼玉、千葉の三県の在住者。回答者約四万八千人のうち約２５％は地方移住の意向があり、関心が高かった。
　移住に前向きな回答者のうち、移住先に群馬県を挙げた人の約三割が前橋市を第一候補に挙げた。自然の豊かさや東京圏へのアクセスの良さを評価した。一方、市側が強みに挙げる「高度な医療機関が近くにある」の関心は低かった。
　北関東への移住意向がある層のうち、約八割がＣＣＲＣに関心があると回答。病院などの医療機能やシニア向けの住宅整備、家事などの生活支援サービスを求める声が多かった。
　三菱総研は、栃木や茨城など首都圏近県と比べ前橋に突出した強みはないと指摘。「前橋ならではの魅力をＰＲする必要がある」と提言した。
　市の担当者は「経済効果がある程度期待できることは確認できた。今後、県と調整しながら、移住先に前橋が選ばれる強みやＰＲ策を考えたい」と話した。

2016年 4月26日
東京新聞

三菱総合研究所（MRI）
三菱創業100周年の記念事業として設立。政策、科学技術、経済・金融など、幅広い研究分野をカバーしている。ITソリューション事業部門の拡大を目指し、システム開発会社である三菱総研DCSの連結子会社化し、三菱UFJフィナンシャル・グループとの業務提携などの施策をとっている。事業分野は、シンクタンク事業、コンサルティング事業、ITソリューション事業の3事業だが、他社シンクタンクに比べ研究色が強い。

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