コンサルティング大手のアクセンチュアにビジネスプロセスアウトソーシングを成功させる方法について話してもらう寄稿。今回は、今後日本企業がBPOに取り組んでいくに当たって、成功するために重要となるポイントについて述べたい。
●コアとノンコアについて
BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を実施する前段として、自社のコアプロセスおよびノンコアプロセスが何かについての社内合意が重要である。前述したように、バリューチェーン上、企業活動のサポートプロセスである経理・人事・総務といった機能は基本的にはノンコアである。
もちろん、その戦略・企画機能やガバナンス機能については、極めて重要な機能であり、企業戦略の根本の部分であるが、そこに費やされる工数の大半は日々のオペレーションである。われわれは過去の経験からほとんどの企業の財務経理、人事業務の大半はアウトソース可能だと考えている。
よって、アウトソースする対象を決める際は、「何がアウトソースできるか」ではなく「何がアウトソースできないのか、それはなぜか」と問うようにしている。われわれがクライアントとアウトソーシング領域の話をする際によく出るのが「うちは判断を求められる業務が多いので、あまりアウトソースする余地はないですよ」ということがある。しかし実態としては、その業務判断の多くは、基準を明確化、ルール化することで、誰でもできるものであることが多い。
●トップのリーダーシップ
日本企業では特に現場のラインの長である、部長、課長の方々が意思決定の権限を握っており、トップダウンではなくミドルアップの意思決定プロセスが主流となっている。特に経理、人事、調達といった業務のBPOを検討するに当たって、基本的に部門の責任者である経理部長、人事部長、調達部長の方々は直属の部下、チームに大きな影響を与えることになるため、対象部門とは一線を画したトップマネジメントの関与なしに自身で推進することは難しい。
われわれの経験上、アウトソーシングが成功するのはほぼ間違いなく、トップが断固としてアウトソーシングを推進する強い意思を示し、重要な意思決定に継続的に参加した場合のみである。
●BPOで達成する効果の明確化
BPOによる効果は、単なる人件費単価の低減ではない。アウトソースすると業務がブラックボックス化するといった指摘もあるが、これは大きな間違いである。中にはブラックボックス化してしまうアウトソーサーも存在するかもしれないが、アクセンチュアを含む第一線のアウトソーサーが受託すると、むしろ BPOを機に業務の可視化が大きく進む。
なぜなら、これまで社内で行っていたがゆえに特に報告の義務もなく、定量的な把握もできていなかった業務についても、アウトソーサーは、実施した業務量やその品質について定期的にクライアントに報告する義務が発生するからである。SLAを締結することで、多くの場合、サービスのスピード、品質も向上する。よりビジネスに直結する効果として、例えば調達業務のBPOについては商材や間接財の調達コスト自体の削減、財務経理のBPOについては売掛金管理、買掛金管理の品質、精度向上によってキャッシュフローの改善が実現されるケースも存在する。
●業務移行
よくクライアントから「うちの経理業務は長年にわたる経験と勘がものをいうので移行は難しいです。特にオフショアに移すことなんて無理だと思いますよ」という話を伺う。もちろん長年にわたって蓄積されたノウハウや職人的なスキルによって日々の業務が支えられているのも事実である。
ただし、その多くは個々人の頭の中にある「暗黙知」として存在してきているだけであり、その多くは「形式知」に変えられる。われわれが移行をする場合、この頭の中にある暗黙知を徹底的に業務マニュアルに落とし込む。
中国オフショア拠点への移行を行う場合、中国の担当者が日本に来て知識の共有を実施する。業務担当者にあらかじめマニュアル化できるものはお願いするとして、実は中国の担当者が1週間程度の間、ずっと現担当の隣に張り付いて業務を見ながら自身で徹底的なマニュアルへの落とし込みを行うのである。これを「シャドーイング」と呼ぶ。
さらに次の一週間では、逆の立場となり、自身で業務を実施させてもらい、現担当者は横に座ってこれを検証するのである。中国への業務移管については、 2008年にはテレビドラマにもなった(編注:日本テレビ『OLニッポン』)が、実際にはもっと効率的、効果的な方法がある。
●業務標準化の実施
BPOを行う際、現在の業務をそのまま移管するのではなく、徹底的な標準化/BPRを行ってこそ、その効果を最大化できる。複数の拠点に分散した業務を集約化する場合は特に、それぞれの拠点で独自のやり方で業務を行っていることが多い。だが、それを単純に寄せ集めただけでは集約化の効果を得られない。
BPOによって、これまで個別に行われてきたオペレーションは、より標準化されることでより大量のトランザクションを効率的かつ安定的に実行できるのである。これをわれわれは「工業化」と呼んでいる。製造プロセスが工業化したように、経理、人事、調達などのプロセスも工業化を進めることができるのである。
ところで日本には製造業を中心に世界を相手にビジネスを展開している企業が多数存在するが、いまだ真のグローバル企業は少ないと考えている。理由はグローバルでの業務標準化が不十分であるからである。
多くの日本企業においては、例えば製造プロセスについては、品質管理を中心に、極めてグローバルでの標準化が進んでいるにもかかわらず、財務経理や人事の領域については、各国でバラバラな制度・業務プロセスが放置されていることが多い。
例えば、日本の本社経理部の部長の方は、国内の経理業務については分かっていても、米国や中国の経理業務がどのように行われているかについて知らないことが多い。本社の経理部長といえども、海外支社の経理部門とは連結決算の段階で各国が挙げてきた決算数値によってつながっているのである。これに対して多くの欧米企業は財務経理・人事などの制度・プロセスをグローバルで標準化し、その運用のためのガバナンスの仕組みを作り、日々その徹底に努めている。
●継続的改善
BPOでは、移管した業務運用が安定した後も、単に同じことを繰り返すだけではなく、継続的な改善が行われる必要がある。アクセンチュアのデリバリー・センター・ネットワークでは、オペレーション・エクセレンスと呼ぶ一連の改善活動を行うことによって常に効率を上げ、品質を高める努力を行っている。
ここでのポイントはあくまでセンター内の自律的な活動によって、これが成り立っている点である。例えば、異なるクライアントの業務を実行しているチーム間で改善事例について情報共有を行ったり、個人が気づき実践した改善ポイントなどをWeb上の掲示板で共有したりといった各種改善活動が日々行われている。アクセンチュアのセンターを訪問いただいた顧客の多くは、その雰囲気や自律的な改善活動の様子に驚かれることが多い。(田村貴志)
2009年 9月30日
ITmedia エンタープライズ
アクセンチュア
世界最大の経営コンサルティングファーム。様々な分野・産業に対し戦略、業務、ITなどのあらゆるコンサルティングを提供しシステムの設計、開発、運用等を手がけるITサービス企業でもある。フォーチュン・グローバル500に選ばれている多国籍企業(2009年の順位は348位)。アンダーセンの一部であった同社は、会計系コンサルティング会社という印象が強いが、システムを中心に戦略から人/組織・業務プロセス改革、SE・運用コンサルまで幅広く展開している。
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