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堀紘一氏、クリステンセン教授と経営を語る

「政策×戦略×技術」という構想
クリステンセン:堀さんは、BCGを2000年に離れましたね。その後、今のドリームインキュベータ(DI)を立ち上げたと聞いてますが、そのあたりから話を聞かせてください。

堀:何か違うことをすべきだと思ったあの当時、別に自分の会社を作ろうと思っていたわけではありません。従来のコンサルティングとはちょっと違うことをしようかと考えたのです。それには2つの面がありました。

まず、中小企業を対象とするコンサルティングです。というのも、かつて大手コンサルティングファームは、多くの日本の中小企業経営者から、大企業の手伝いばかりしている、中小企業を助けてくれない、と批判されていました。

私の仕事は慈善事業ではありません。たとえ予算は少なくても収支が合うべきです。そこで思いつきました。新規事業なら、まとまった量の株式かストックオプションを得られるのではないか。成功すれば収益がある。だから新しいビジネスを助けることは可能だと。

クリステンセン:なるほど。

堀:もうひとつの発想には、あなたの影響があったように思えます。

少なくとも日本ではテクノロジーとストラテジーのつながりが極めて弱かった。だから技術力と戦略を結び付けるために努力したのです。まだBCGにいた頃にも、科学の知識や経験を持つ人材を採用しようと思いましたが、あまりうまく行きませんでした。それで新会社のドリームインキュベータ(DI)では、まったく異なるコンセプトを打ち出しました。

「政策×戦略×技術」という構想です。政策というのは公共政策のことで、昔からあるBCGやマッキンゼーのようなコンサルティング会社は、これについて割と弱かった。

クリステンセン:そのとおりですね。

堀:公共政策、企業の戦略、企業の技術力。これらの要素を混在させるという、まったく新しい分野を私たちは目指したのです。それでコンサルタントというより「ビジネスプロデューサー」と名乗るようになりました。

クリステンセン:それは面白い。

堀:本当に事業をプロデュースする立場にあると考えたところが、トヨタのような会社に気に入ってもらえました。長期的に利益をもたらす事業を生み出すためのコンサルティングです。5年とか10年先のことを考えます。短期的には儲かりません。

クリステンセン:いいですね。私も同じようなことをしていますから、興味深いことです。

堀:そうなんですか?

クリステンセン:そうなんですよ。似たような感じで、2つのグループを作って仕事を進めてきました。片方は、かつてのBCGのようなコンサルティング会社で「イノサイト」という名前です。企業が新しい成長事業を生み出せるように助けるための会社です。

もう片方の「クリステンセン研究所」では、公共政策の「破壊的変化」問題に取り組んでいます。どちらもDIほど大きくなくて職員数は合わせて120人くらい。コンサルティング会社は営利目的、研究所は非営利です。

研究所には私が教えた卒業生たちがいて、コンサルティング会社のほうで幹部になったりしています。研究所はパロアルトとボストン、コンサルティング会社はボストンとシンガポールにあります。

堀:いいですねえ。

クリステンセン:話の続きをどうぞ。

堀:今では、創業当時に行っていたベンチャー投資についても発想を転換しました。投資先をたくさん抱え込むようなベンチャーキャピタルにはならないことにしたのです。

これはいいと思える事業計画に限定して、おカネと人材をつぎ込む。なぜならアメリカのベンチャーキャピタルとは違うからです。私たちはアメリカのようにはやれません。

クリステンセン:そうですか。

堀:出資先の一つであるアイペット損害保険は、今や日本のペット医療向け保険業界第2位で、大きく業績を伸ばしています。リバリューというリバースサプライチェーンの会社も急成長しています。

それから「東京ガールズコレクション」。若い女性向けのファッションイベントなんですよ。パリコレクションやミラノコレクションとは違いますが。その商標権に投資しました。

クリステンセン:それは面白いですね。

堀:そこでですが、こういう話を聞いた人は、直観的にどんな感想を抱くでしょうか。

よそのコンサルティング会社も、昔ながらの業務から多様化しているようです。コンサルティング業界は、色々な面で分散傾向にあるように思います。この状況をどうみますか。たとえばDIはあれこれ少しずつやっていて、焦点が定まっていないというふうに見えるでしょうか。

クリステンセン:お話を伺いながら、私の考え方と重ね合わせたり、直観的思考で一致するかしないか、という点を考えたりしていました。

経営について、今度は私の視点から話してみましょう。お互いに考え方はとても似ている、ということを説明したいと思います。焦点が定まらないように見える戦略も、実は焦点が定まっているのです。人材投資などについてもです。

堀:どうぞ。

「科学的方法」と「統計的方法」の違い
クリステンセン:何世紀も昔のことですが、どうして世の中はこういう世の中になるのか、という問題を人々は全然、理解していませんでした。そこへ(フランシス)ベーコンが現れて「科学的方法」をもたらしました。何が原因で何が起こるのか、そしてそれはなぜなのか、ということを解き明かそうとする試みでした。つまり因果関係の究明です。

世の中はたいへん複雑なものです。仮にひとつの現象を見つめ、その原因を究明しようと思ったとします。注意深く見てみると、相互依存性を持つ原因の数々が、もつれ合うようにしてその現象を囲んでいるものです。世の中はひとつの原因とひとつの結果によって成り立つものではありません。深く生い茂った木立のように、原因が現象を取り囲んでいるのです。

この科学的方法ゆえに、科学者はただひとつの現象に焦点を当てるようになりました。

私は脳卒中を経験したため、数字や単語を思い出せないときがあります。

科学者たちはひとつの対象に焦点を絞り込み、ひとつのことだけ深く研究することによって、問題を単純化しました。科学的方法は、人間の周りの物理的な世界に対して、理解と予測可能性をもたらしました。

次に現れた社会科学者たちにも、世界を単純化する必要が生じました。でもたいへん異なる姿勢を取りました。原因の森に立ち向かうのではなくて、原因となる多くの力を不変のものとする、またはその存在を打ち消して、結果に影響を与えそうないくつかの要因だけに焦点を当てる。そうやって単純化を図ったのです。そのうえで、高度な分析をしました。統計的相関性を用いて相関性のモデルを考案したのです。

堀:そうですね。

クリステンセン:ほんの少しの要因だけを見て、そのほかの一切はないものと想定し、単純化しようとしたわけです。科学的方法は複雑性を示していたのですが。随分と違うことになりました。

でも重要なのは次の点です。科学的方法が因果関係を示した一方で、統計的手法は相関関係を示すということです。

相関性を検討することは、ビジネス、教育、公衆保健、医療の各分野で、思考の枠組みとして定着しています。新薬を申請するためには臨床試験が必要だというふうに、物事の相関性を示すようにすると、因果関係ではなく確率で表現することが可能になります。

これまで私は順調に仕事をしてきたと、人々には言われるかと思います。この私がずっと目指してきたのは、マネジメント(経営・運営)をひとつの現象として取り上げ、科学的方法というレンズを通して研究することです。それだから成功してきたのだとも言えるでしょう。

なぜ何が何の原因になるのか。要素の森がマネジメントを複雑な現象に見せているが、それはどういう仕組みなのか、という問題を理解するためです。そういうことを私はやってきました。

堀:面白い。

クリステンセン:いい結果が出ているんですよ、こんなふうに。最初に書いた本の『イノベーションのジレンマ』は、きっとご存じでしょう。

堀:誰でも知ってます(笑)。

いい理論とは何か
クリステンセン:こういう理論を(カメラの)レンズセットのようにすれば、いろんな業界が進んでいく先を予測できるのではないかと考えたのです。

次には『イノベーションへの解』を書きました。主に電気通信業界に関する本。それからまた2冊出して、『イノベーション・オブ・ライフ』。今日の医療保険制度の惨状とその将来に関する本。そして、国家はなぜ成長してなぜ不安定になるかということに関する本。こちらのタイトルは『キャピタリストのジレンマ』です。

堀:キャピタリストのジレンマですか。

クリステンセン:年代順にはこういう展開なのです。一見すると、私が焦点を見失っているような感じでしょう。このうち3冊には共同著者がいますが、それぞれ別の人ですし、どの本もそれぞれの分野の問題と解決策に大きな影響力を及ぼすものです。

そんなわけで、これとあれはずいぶん違うじゃないか、これと通信業界の話は別だろうなどと、人には言われるでしょう。でも私は、そうじゃないと答えます。

なぜなら私は理論のセットを持っています。それは因果関係を示すものなのです。現状打破(破壊)の理論、いかにして成長は生み出されるかという理論、何が人に物を買わせるのかという理論。与えられた課題にまつわる因果関係、物事が出現するか企画されるかの違いなど、いろんな理論があります。

私は、理論によって世の中の仕組みを理解しようとしています。理論をレンズセットのように使いこなし、医療制度について検討します。教育問題を検討する際にも、同じ理論のセットを使います。

それでも私は焦点を見失っているなどとは、全然、思いません。それどころか、しっかりと焦点を合わせています。いい理論というものは、個別の企業とか業界とか団体にだけ通じるものではありません。

何がなぜ何の原因になるのか、ということを示すのがいい理論なのです。

ですからペット保険に投資するかと思ったら、また別のことに投資すると言えば、「焦点を見失っている。ひとつの業界とか投資段階とか地域に絞り込むことが必要だ」などと、人には言われるでしょう。でも私の直観では、そういう人たちは相関性に基づいて総論を述べているのです。すると集団に対して一般化することはできても、個別の問題には対応できません。確率の問題になります。

けれども理論によって焦点を絞るようにすれば、因果性と向かい合うことになります。ゆえに個々人について述べることが可能になるのです。

堀:なるほど。

コンサルティングは理論的か
クリステンセン:一例を挙げましょう。社会科学では相関性を追求し、それゆえに因果関係ではなくて確率を示すようになります。

私は5年くらい前に濾胞(ろほう)性リンパ腫と診断されました。腹部に大きな腫瘍があってかなり進行していました。当時、リンパ腫は37種類あり、私は生検を受けました。

その結果を聞きに行くと、医師からスライドを見せられ、こう言われたのですよ。「これがあなたの組織です。1番のようでも、2番のようでもありません」。そうして23番まで来たところで、医師はこう言いました。「ほら、あなたはこれなのです。濾胞性リンパ腫といいます」。

さらにこう言われました。「この第1の治療法ですと、5年後の生存率は73%です。第2の治療法はもっと新しくて、まだ早い段階にあるのですが、これなら5年生存率が86%になります。ですから第2の治療法を選択すべきでしょう」。

お気づきでしょうか。医師は私個人については何も言えませんでした。患者全体に対する一般論としては述べることができたわけですが、要は相関性を見ているからです。私ひとりについては何も言えませんでした。

というわけで、レンズセットは便利なのですよ。ひとつの業界を見つめて、因果関係の森を描き出します。そうすれば、与えられた状況の下で、病院ならこうすべきだ、保険会社ならこうすべきだ、ということを因果関係で示せるようになるのです。

ですから使う言葉は違っても、あなたも同じことをしているような気がします。問題に出合うと、頭の中でいくつかの理論を展開していますよね。相関性ではなくて因果性を求めてです。そういうビジネスだとお見受けします。

堀:さあどうでしょうか。まず、私はそれほど理論的ではありません(笑)。経営コンサルタントというのは、やや理論的というか、ほぼ理論的というか。

クリステンセン:それは違うと思いますよ。理論というのは因果関係を示すものですから、あなたが取った行動も、頭の中の理論に基づいていたはずです。これをやれば必要な成果を得られるだろう、という理屈があったはずなのです。経営者として何か計画をまとめるときも、こうすればこうなると断定できるような、因果性を示す理論セットに基づいているのです。

「理論的」という言葉には、実用的でないとか学術的だという意味合いもありますが、理論そのものは決してそうではありません。理論は因果関係を提示するものです。人は行動を取るたびに理論を用いているのです。

経営者は、日頃から理論を多用しています。彼らは、理論を用いているという自覚がないので、世の中が予測不可能なものに見えるのです。

あなたも盛んに理論を駆使しているんですよ。きっとBCG時代にも、頭の奥のほうで数々の因果関係を検討したからこそ、当時の仕事の代わりに今の仕事を選んだのです。ご自身ではそのように考えないとしても、本当にいい理論があるのでしょう。

(翻訳:石川眞弓)

2014年 5月7日
東洋経済オンライン

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