AIによって海を渡る船マッキンゼー・アンド・カンパニー プロジェクト事例

マッキンゼー・アンド・カンパニー Webサイト引用
https://www.mckinsey.com/

世界最古のスポーツトロフィーとして知られる国際ヨットレース「アメリカズカップ」のディフェンディングチャンピオンの優勝をAIによって支援

アメリカズカップはテクノロジーとイノベーションという技術要素も重要になるヨットレースである。大会ルールにより船体の水中翼の設計変更が可能であり スピードアップにつながる水中翼をいかに設計し上手にヨットを操縦するかが優勝につながる鍵であった。
アメリカズカップに出場するチームはシミュレーションソフトを使ってヨットを設計しており、最適なシミュレーションソフトを適切に使うことが優位性を生み出していた。 4回目の優勝を目指すニュージーランドのチーム「エミレーツ・チーム・ニュージーランド（ETNZ）」は、ヨットの設計・操縦のためのシミュレーションソフトをマッキンゼーと提携して開発しようとした。

シミュレーションテストのスピードアップがクライアントの課題
今まではシミュレーターを使って実際にヨットを作成することなく新しいヨットの検証をしていたが、シミュレーターを動かすには複数人必要でありチームの練習や移動時間、レースまでの時間を考えると人手を割くことはヨット作成の上で非常に負担がかかっていた。 マッキンゼーはヨットの設計におけるシミュレーションテストを迅速化することがクライアントの課題と考えた。 そこで新たに設計された水中翼をETNZのシミュレーターで操縦して検証できるAIボットをプロジェクトに導入した。 これにより人手を割かずにシミュレーションを行うことが可能になった。

深層強化学習でAIを一流の船員に
まずマッキンゼーはクラウド上でシミュレーションを実行するためのインフラ環境を開発した。 データ、分析、機械学習の専門家の他、傘下のデータ分析会社QuantumBlackからもメンバーを迎え、6週間でETNZのシミュレーターをクラウドに移行しインフラ環境を整えた。 その後プロジェクトチームは深層強化学習というアプローチでAIボットにプロの船員になるための学習をさせた。 プロジェクト開始時点は船の操縦について何のデータもない状態のAIボットだったが、深層強化学習により風速、方向、14種類の帆とボート制御の調整など何度も無数の変数を使用して試行錯誤で学習し洗練された状態になった。 絶え間なく試行錯誤するAIボットは人間が習得するのに数年かかるものでも数時間で習得が可能である。
次にプロジェクトチームは複数のAIボット間での情報シェアを可能にするネットワークを作成した。 その結果各AIボットは集合体験から情報を得ることができるようになり最終的には1000個のAIボットが並行して実行されるようになり互いに学習しあうようになった。 深層強化学習と規模の力によりプロジェクトの時間とコストが大幅に削減された。 AIボットは基本の操縦操作をマスターし複雑な航海操作ができるようになった。 8週間後AIボットがシミュレーター上でプロの船員よりも高いパフォーマンスを発揮。 ついにAIボットが水中翼のバリュエーションを検証するための理想的な段階に入った。船員はすぐさまAIボットから操縦法を学んだ。

AIの導入で開発スピードが10倍アップ
AIボットの導入により船員が行うより一貫性、拡張性が高く、設計インタラクションのサイクルが大幅にスピードアップしたのである。 2019年から2020年初頭にかけてETNZの開発はAIボット導入により10倍もスピードアップした。 優勝というレース結果はAIの深層強化学習がプロセス設計にとって革新的なツールとなりうること、そして業界全般に応用できる可能性があることを示唆している。